ビットコインに次いで有名な仮想通貨「イーサリアム」
イーサリアムとはどんな通貨で、イーサリアムのシステム「イーサ」は何なのか、説明します。
はじめに
イーサリアムと聞くと、「ビットコインの次に有名な仮想通貨で時価総額が大きいものでしょ」という感じでイメージされる方が多いと思います。
しかし、イーサリアムとビットコインでは、根本的にブロックチェーンの活用法が異なり、イーサリアムでは、ブロックチェーンを契約情報に応用しているのです。
イーサリアムは、ビットコインに次ぐ第2の仮想通貨として期待されていましたが、ハッキング事件や分裂騒動などの影響もあり、揺れています。
本稿では、イーサリアムの特徴とイーサリアムの周辺事情を見ていこうと思います。
「イーサリアム」は通貨そのものではない
ビットコイン以外の仮想通貨はアルトコインと呼ばれ、様々な種類がありますが、代表的なものとして挙げられるのは、なんといってもイーサリアムでしょう。
イーサリアムは、ビットコインに続いて急速に普及しつつある仮想通貨です。
「イーサリアム」というのは仮想通貨の名称ではなく、イーサリアムプロジェクトという計画のために提供されているプラットフォームの名称です。
そして、イーサリアムプロジェクトで使用される仮想通貨のことを「イーサ」と言います。
したがって、「イーサリアムを買った」「イーサリアムを売った」などと言う場合には、「イーサを買った」「イーサを売った」と同じ意味だと考えてください。
したがって本稿でも、当サイトの他の記事でも、基本的にイーサリアムという表記を以て、内部通貨のイーサを意味している場合が多々あります。
イーサの時価総額は、2017年8月14日現在で約3兆円となっています。
1位のビットコインは7兆円程度ですから、半分以下であることが分かりますが、それでも最近になって、急速に時価総額が伸びています。
ちなみに、第3位はリップルコインであり、時価総額は7000億円程度となっています。
イーサリアムはビットコインと同じように、円や米ドルと交換することができます。
だからこそ、イーサリアムが仮想通貨のように見えてしまうのですが、実際には上記の通りで、プラットフォームの名称です。
例えば、AさんがBさんと何らかの契約を交わすとします。
ここでは、不動産売買をするにあたって、売買契約書を交わすと考えましょう。
Bさんに不動産を売るにあたり、Aさんは宅建業者に依頼して売買契約書を作成します。
また、司法書士に所有権移転登記のための書類の作成を依頼し、法務局に提出してもらいます。
このような契約や登記などの様々な流れを全てデジタル化しようというのが、イーサリアムのプラットフォームの考え方です。
つまり契約情報をブロックチェーンによって管理するのです。
ブロックチェーン技術では、過去の全ての取引情報が記録されるものです。
したがって、イーサリアムを使えば、そのブロックチェーンには不動産取引の記録が全て記録されることになります。
不動産登記や契約内容がすべて電子的に記録されれば、誰でもそれを自由にさかのぼって記録を確認し、現在の所有者や抵当権などの記録を簡単に確認でき、便利になっていくでしょう。
また、手続きも自動化されて人手が要らなくなり、コスト削減になります。
イーサリアムを使って不動産の取引が行われるようになれば、代金を振り込む手間や手数料も必要なくなります。
不動産を購入した人ならばわかるでしょうが、とにかく書式はバラバラで、取引によって雰囲気やルールが異なることもよくあります。
そのため、細かく宅建業者に確認しながら取引を進める必要があり、大変煩雑です。
だからといって、それらの作業をずさんに済ませてしまうこともできません。
専門外の人や分からない人が多いからこそ、書類を作成しチェックする専門の人がいたりするため人手が必要になり、効率は悪く、コストもかかります。
しかし、イーサリアムを活用することによって、人手を大幅に省き、効率を改善することによって、コストを削減することができます。
誰でも、パソコンやスマホから簡単な手続きを行なうことによって、便利に不動産投資ができるようになるかもしれません。
イーサリアムは資産管理に特化
このことから、イーサリアムは資産管理に特化した仮想通貨であるといえるでしょう。
この仕組みを利用すれば、不動産だけではなく、株式や債券といった有価証券の取引にも応用できますし、相続や譲渡にも活用できるでしょう。
納税などの手続きの際にも活用できる可能性があります。
つまり、ブロックチェーンの便利さとして、現在では送金や決済手段がよく知られていますが、今後の展開としては株式や債券といった金融資産、不動産、保険などの様々な方面で、ブロックチェーンが活用される可能性があるということです。
例えば、株式投資には未公開株というものがあり、これは株式が公開されておらず、誰でも自由に売買することができない株式のことです。
つまり、上場していない株式と考えると良いでしょう。
未公開株式は、それほど株価が高くなく、人気もありませんから、証券会社が多額のお金を投じて、未公開株式を自由に売買できるシステムを作ったとしても、ほとんど元手を回収することができません。
そこで注目されているのが、イーサリアムです。
イーサリアムならば、ネットワーク上で相互にコンピューターが承認し合えばいいため、自前のサーバーを用意する必要がなく、初期コストもそれほどかかりません。
また、イーサリアムはすでに様々なモジュールが出回っているため、それらによって自社サービスを開発すれば、開発の工程もかなり短縮されるでしょう。
つまり、開発コストも大きく削減できるということです。
そして、自社サービスを開発してから、取引記録の保存と承認にはイーサリアムのプラットフォームを使えばいいというわけです。
これを既存の口座と組み合わせれば、現在株式口座を開設している人は、新たに煩雑な手続きをする必要もなく、未公開株式の売買が可能となります。
ちなみに、イーサリアムは既に、マイクロソフトにも導入されています。
企業での利用も広がっているため、イーサリアムの注目は今後も高まっていくと考えられます。
イーサリアム分裂騒動とは?
上記の通り、イーサリアムは契約情報を記録するためのプラットフォームであり、様々な業務への利用が可能であることから、イーサリアムを利用した様々なサービスが立ち上がりました。
その中で注目を集めたサービスが、投資ファンドの「ダオ」です。
そもそも投資ファンドとは、一般の人がなかなか手を出せない、富裕層向けの位置づけでした。
なぜならば、ファンドが集めた巨額の資金をうまく振り分けてポートフォリオを作り、そこから利益を挙げていくためにはファンドマネージャーの給料がかなりの高給になるからです。
ファンドへの出資というのは、ファンドを通して様々な金融資産に投資するというよりは、ファンドマネージャーの運用能力に対して投資するものです。
したがって、ファンドに出資するためのハードルは非常に高く、主に富裕層相手のサービスなのです。
その点において、ダオは新しいサービスと言えました。
というのも、ダオは投資先の選定を、出資した投資家全員の投票で決めるという方針を取ることによって、ファンドマネージャーを置かずに投資先を決定することとしたのです。
つまりダオは、小口の出資者をたくさん集めて資金を調達することから、クラウドファンディングの機能を持っているファンドであるといえます。
そして、資金の移動には仮想通貨を利用しました。
ちなみに、ダオはイーサリアムのプラットフォームを利用しているわけですが、そのプラットフォーム内で使う代用通貨をDAOトークンと言います。
そして、DAOトークンを手に入れるためには、イーサリアムの仮想通貨であるイーサが必要となります。
1ETH=1000DAOで取引されており、敢えてイーサを利用することによって、送金コストの節約を図っていました。
斬新なアイデアであり、話題の仮想通貨を利用していることからも、ダオはたちまち注目を集めることとなりました。
資金調達の際には、50万ドルの募集に対して1.6億ドルもの出資が集まったほどです。
このことによって、イーサリアムの価格も一時急上昇しました。
ダオの失策
ダオの投資先は、株式未公開のベンチャー企業だったのですが、ベンチャー企業の世界はプロでも目利きが難しく、本当の伸びる会社を見つけることは容易なことではありません。
そのため、優秀なファンドマネージャーを抱えたファンドでさえ、多数のベンチャー企業に2万ドル程度の少額で出資し多くの投資先でうまくいかず、数年に一度のペースでどれか一社が大化けすれば元手を回収できるというモデルなのです。
ダオのシステムは、最初は多数のベンチャー企業に少額ずつを出資し、次第に成功率が上がってきた企業の出資額を増やし、成功率が下がった企業の出資額を減らすというものでした。
その出資額の増減を参加者の投票によって行うところが画期的でした。
また、何の問題もなく運営を続けられたならば、ダオは画期的なファンドとして大成功をおさめたかもしれません。
しかし、ダオには決定的な欠点がありました。
それは、ダオのセキュリティが脆弱だったということです。
2016年6月、ダオはハッキング被害に遭い、3600万ETHが盗まれてしまいました。
この事件によって、ダオは当初集めた150億円のうち、約半分に当たる75億円を失うことになりました。
もちろん、これによってイーサリアムの価格は暴落しました。
しかし、その75億円を奪い返すホワイトハッカーが顕れ、インターネット上でハッカー同士の熾烈な奪い合いが繰り広げられました。
イーサリアムの分裂
75億円ものイーサリアムが奪われたことで、ダオのセキュリティはもとより、イーサリアム自体にも問題があったのではないかという議論が起こりました。
そして、イーサリアムの運営元から緊急の決定として、取引をなかったことにする、すなわち奪われる直前以降の取引を全てなかったことにするという決定が下されました。
これは、ハードフォークという手段であり、禁じ手とされています。
繰り返し説明していることですが、ブロックチェーンは取引履歴が鎖のようにつなげられていることが最大の特徴であり、これによって情報の紛失や改ざんを不可能にしています。
だからこそ、仮想通貨という実体のないお金が信用を得ることができました。
しかし、運営元が「この期間の取引をなかったことにする」という決定を下してしまうと、ブロックチェーンがおかしなことになります。
ブロックチェーンの信頼性の一つに、「枝分かれしない」というものがあります。
ブロックチェーンは、一番長いチェーンだけが正しいとされ、それ以外は排除することで正当性を保っています。
つまり、枝分かれした短いチェーンはすぐに排除され、これも仮想通貨の信頼に貢献している仕組みです。
しかし、ハードフォークを行なうことによって、事件の直前以降の取引をなかったことにし、実際には存在した取引を無視して新たにチェーンをつないでいくならば、チェーンが枝分かれすることになります。
このことから、イーサリアムのブロックチェーンは、ハッキングが起きた取引も記録されているブロックチェーン(現在のイーサリアム)と、一旦巻き戻して事件直前から枝分かれさせたブロックチェーン(現在のイーサリアム・クラシック)の二つに分かれてしまいました。
これが、イーサリアムの分裂です。
二つのイーサリアムが同時に存在するという、本来ならばあってはならない事態が起きてしまったのです。
イーサリアムの問題はこれだけでは終わりませんでした。
ハードフォークの決め方もまずかったのです。
本来の考え方から言えば、ブロックチェーンは中央のサーバーを置いたり、管理人が中心となったりして管理していくものではなく、多くの人が分散して管理に当っているものです。
だからこそ、信用も安全性も高まっているのです。
しかし、ハードフォークを決定するにあたって、ごく少数の運営者だけで決めてしまいました。
当然、そのやり方に反対する人が出てきました。
もともと、中央集権的なシステムへのアンチテーゼとして、仮想通貨に関わってきた人達は、このハードフォークに反発しました。
そのため、ハードフォークを行なっていないブロックチェーンであるイーサリアム・クラシックを支持しています。
また、大問題が起こった場合には書き直しも仕方がないと考える人達は、ハードフォークに賛同し、新しいイーサリアムを支持することになりました。
イーサリアムとイーサリアム・クラシック
当初、被害に遭ったもともとのブロックチェーンは誰も引き継がないだろうとの考えから、イーサリアム・クラシックの価値はほぼゼロの状態でした。
しかし、世界一の仮想通貨取引所がイーサリアム・クラシックの取り扱いを始めたところ、取引が成立して値が付き、それが徐々に伸びていきました。
価格が上がってくれば、マイニングをしてブロックをつないでいき、その報酬としてイーサリアム・クラシックをもらう意味も出てきます。
需要も、管理者もあらわれたことで、他の取引所も徐々にイーサリアム・クラシックの取り扱いを始めるようになりました。
イーサリアムとイーサリアム・クラシックでは、はたしてどちらが主導権を握るのか、まだまだ分からない状態です。
しかし、最近ではイーサリアムに攻撃を加える人も出てきています。
イーサリアムを攻撃して使えなくすれば、皆イーサリアム・クラシックに乗り換えるだろうということで、私たちの見えないところで争いが起きています。
また、そうした攻撃をうけた時に、再びハードフォークが起きるのでは?という思惑もあり、かなり混乱した状況となっています。
ブロックチェーンには改善の余地あり
このような状況に陥ったのも、まだまだブロックチェーンという技術そのものが、技術的に過渡期にあり、改善余地を残しているからだという見方もあるでしょう。
失敗と改善を繰り返した結果、技術はどんどん進歩していき、エラーは少なくなっていきます。
iPhoneという高性能のスマホでさえ、2007年の発売開始から2017年の今日に至るまで、幾度となくアップデートを繰り返してきました。
それによって、どんどん人々の生活を快適にする力を増しています。
ブロックチェーンも同じことで、試行錯誤を繰り返しながら磨かれていくものです。
まだまだ生まれて間もない技術であることから、どうしても気づかなかったところで失敗が起きることがあります。
ならば、やはり仮想通貨は危ないものだという人もいるかもしれません。
しかし、現段階でもかなり優れたものであり、今後の改善によってそれがより素晴らしくなっていくのがブロックチェーンという技術です。
時間の経過とともに、失敗がどんどんと活かされるようになり、細かいバグも解消されていき、想定外の事態に陥るリスクはなくなっていくことでしょう。