2018年でG20の仮想通貨への認識は徐々に変化。国際基準の実施は足踏みか

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11月30日から12月2日にかけて、G20が開催されました。

これまで開催されたG20ではたいした動きがみられず、また今回も大きな変化したとはいいがたいのですが、今年1年のスパンで見ると徐々に良い方向へと進んでいるように思います。

本稿では、これまでの声明文を比較しながら、2018年の国際的な動きを総括していきます。

国際的な姿勢の変化

11月30日から12月2日にかけて、アルゼンチンの首都ブエノスアイレスにおいて、G20が開催されました。

G20とは、世界の主要20か国の首脳が集まり、その時々における金融・経済の問題について世界規模で話し合うものです。

仮想通貨の存在が大きくなるにつれて、G20でも仮想通貨の問題が取り扱われるようになっています。

特に大きな問題は、仮想通貨がマネーロンダリングやテロ資金許与などに悪用されることであり、これが規制の焦点となっています。

もっとも、仮想通貨に対する解釈や取り扱いが難しいことから、国際規制の必要はあるものの、規制の方針を決めかね、度々規制案の策定が延長されている状況にありました。

あまり進歩のない会議が繰り返されていたため、今回もそれほど注目していなかった人もいると思います。

今回の会議でも、大きな変化は見られません。

しかし、G20 の動きを長い目で見てみると、仮想通貨への姿勢にそれなりの変化がみられます。

これまで、G20にともなって財務省が公式サイトで掲載してきた声明文から、国際的な姿勢の変化を見ていきましょう。

 

仮想通貨技術への姿勢が積極化

まず、技術的な部分への認識についてみていきます。

G20の3月の声明では

 

暗号資産の基礎となる技術を含む技術革新が、金融システムの効率性と包摂性及びより広く経済を改善する可能性を有していることを認識する。

 

としているのに対し、7月の声明では

 

暗号資産の基礎となるものを含む技術革新は、金融システム及びより広く経済に重要な便益をもたらし得る。

 

となっており、仮想通貨技術への評価が上がっていることが分かります。

これに加えて今回のG20では、デジタル経済について以下のように述べられています。

 

革新的な成長及び生産性のためのデジタル化及び新興技術の恩恵を最大化すべく,我々は,零細・中小企業及び起業家を後押しし,ジェンダーに基づくデジタル・デバイドを埋めてデジタル包摂性を更に増進し,消費者保護を支援し,デジタル・ガバメント,デジタル・インフラ,及びデジタル経済の計測を 改善するための措置を促進する。

 

3月と7月の会議では、仮想通貨技術への価値を認めるにとどまっていましたが、今回の声明を見てみると、仮想通貨技術の恩恵を最大化するという姿勢が明確になっています。

そのための方策も複数打ち出されており、技術革新を積極的に受け入れる姿勢が分かります。

 

貿易との接点も重要視

我々は,革新的なデジタル経済のビジネス・モデルの導入を共有し促進するための「G20 デジタル政策リポジトリ」を歓迎する。

我々は,貿易とデジタル経済の接点の重要性を認識する。

我々は,人工知能(AI),新興技術,及び新たなビジネス・プラットフォームに関する我々の作業を継続する。

 

さらに、貿易への活用を見据えたデジタル経済の促進についても述べられています。

国際送金とデジタル経済・デジタル資産の接点はこれまでも注目されてきており、リップル社に注目が集まっている理由でもあります。

この点について言及されていることから、仮想通貨への国際的な評価が大きく高まっているとも考えられます。

 

Bobby Lee氏の発言も

また、大手仮想通貨取引所BTCCの共同設立者であるBobby Lee氏は、今回のG20の内容を受けて、自身のツイッター上で以下のように述べています。

 

“#fff”]G20の世界のリーダーたちは、現在、共通の敵に直面していることを認識しているのだろうか。

ビットコインが10歳になった(ビットコインの運用開始は2009年1月3日)今、政府はゆっくりと、しかし確実に自国通貨を発行する能力を失っている。

最初のうちは、ゆっくりとしたペースかもしれないが、この革命の流れが逆戻りすることはない。

 

G20にとっての共通の敵、つまり自国の管理のもとに自国通貨を発行している政府にとって、政府の管理を受けずに機能する仮想通貨は、各国の法定通貨を駆逐する「敵」というわけです。

Bobby Lee氏は、それを「認識しているのだろうか?」と疑問を呈しています。

仮想通貨の台頭を認めつつある姿勢は、声明の内容から見て取れます。

しかし、Bobby Lee氏から言わせれば、仮想通貨の台頭は加速度的に進んでいくため、まだまだ認識が足りないとの発言でしょう。

 

 

仮想通貨の抱える問題

3月・7月の声明文では、仮想通貨の抱えている問題について、以下のように述べています。

 

暗号資産は消費者及び投資家保護、市場の健全性、脱税、マネーロンダリング、並びにテロ資金供与に関する問題を提起する。

 

仮想通貨は、市場操作の懸念も払しょくされておらず、ボラティリティが高いハイリスクな資産であることから、価値の保存には不向きであり、消費者や投資家に損失を与える可能性が問題視されています。

また、脱税やマネーロンダリング、テロ資金供与についても問題視されてきました。

今回の声明文では、この点について以下のように述べられています。

 

我々は,情報通信技術(ICT)の利用における安全の問題に対処することの重要性を再認識する。

我々は,適用可能な法的枠組みを尊重し,消費者の信頼,プライバシー,データ及び知的財産権の保護を確立するよう取り組みつつ,情報,アイデア,知識の自由な流通を支持する。

 

ICTとは「Information and Communication Technology」の略であり、ITにコミュニケーションを付加した用語です。

なじみのある「IT」と同じものと考えて問題ありません。

仮想通貨の基礎となるブロックチェーン技術は、ICTを応用したものです。

ICTの発達の過程として生まれたものですから、この議論は仮想通貨について述べたものとも言えるでしょう。

2017年から、仮想通貨が徐々に広がり始めており、安全の問題に対処する重要性が高まってきました。

対処のために法的枠組みを適用していき、保護するべきものを保護しながら、自由な流通をしていくことを明確にしていることが分かります。

 

通貨としての認識

3月と7月の声明では、

 

“#fff”]暗号資産は、ソブリン通貨の主要な特性を欠いている。

 

とされていました。

政府が発行・保証する通貨をソブリン通貨と言いますが、その特徴は「価値の裏付けが保証されている」ことにあります。

中央集権的に管理されているソブリン通貨は、政府が通貨の発行量をコントロールすることによって管理されています。

管理する政府を信用するからこそ、1万円を原価20円の紙ではなく、1万円の価値があるお金として認めています。

つまり、管理している国に信用があれば通貨にも信用がもたらされるのです。

「価値の裏付け」とは「政府の信用」であると言えます。

これに対し、仮想通貨は非中央集権的な思想によって生まれたものであり、ビットコインをはじめとする仮想通貨の多くが、何人にも管理されないものです。

つまり、管理する政府の信用が価値を裏付けることがありません。

このため、「1BTC=いくら」というように、一定した価値があるものとする信用がありません。

専門家や投資家の間でも、「ビットコインには価値がない(0円)」とする人もいれば、「ビットコインは5万ドルになる」とする人もいるように、信用に大きな差があります。

したがって、仮想通貨は価値の裏付けが保証されておらず、通貨として認められないとするのが国際的なスタンスでした。

 

この欠点には触れられず

今回の声明では、ソブリン通貨に対する仮想通貨の欠点について触れられていません。

仮想通貨に価値の裏付けが保証されたわけではありませんから、この欠点が解消されたとは言い難いでしょう。

しかし2018年を通して、仮想通貨とソブリン通貨における差がいくらか埋まったと考えられている可能性があります。

そもそも、法定通貨が政府の信用を裏付けとしているのに対し、仮想通貨はブロックチェーン上のデータとして存在することから、そのデータの信用を裏付けとする必要があります。

このデータは、仮想通貨の取引によって生成されるものであり、仮想通貨取引にかかわる人が価値を決定していると言えます。

仮想通貨の普及が広まり、世界中の人々がデータを信用して利用するようになれば、そのうえに仮想通貨の価値が成り立つのです。

仮想通貨の普及をいかに広げ、いかに信用力を高めていくかがポイントになるわけです。

仮想通貨の普及率はまだまだ低いものの、徐々に普及しつつあります。

Bobby Lee氏の発言の通り、普及率が加速度的に高まっていく可能性もあります。

仮想通貨の信用力は普及率と相関関係にあることから、いずれ仮想通貨は「ソブリン通貨の主要な特性を備えている」とみなされるかもしれません。

今回の声明では、この点について明確な文言が見られませんが、触れられていないことをある種の変化とも考えられます。

 

リスクへの認識

仮想通貨の持つリスクに対して、3月の声明では

 

暗号資産は、ある時点で金融安定に影響を及ぼす可能性がある。

 

とし、7月の声明では、

 

暗号資産は、現時点でグローバル金融システムの安定にリスクをもたらしていないが、我々は、引き続き警戒を続ける。

 

としています。

3月は、仮想通貨市場が短期間で異常な暴騰・暴落を見せた直後であったため、金融安定へのリスクを懸念しており、大きく下落した後にある程度の落ち着きを見せた7月には、「要警戒」の姿勢に移ったものと思われます。

仮想通貨には懸念すべき問題があるものの、国際的な金融システムにリスクをもたらしていません。

全世界の金融資産のうち、仮想通貨の価値は1%にも満たないレベルですから、仮想通貨に問題があるとしても世界の経済・金融への影響は少ないとする見方です。

「引き続き警戒していく」との見方は、仮想通貨が占める割合が大きくなっていく可能性を見据えているとも考えられます。

今回の声明では、以下のように具体的な見解が述べられています。

 

合意された国際基準に基づく,開かれた,強じんな金融システムは,持続可能な成長を支えるために極めて重要である。

我々は,合意された金融規制改革の課題の完全,適時かつ整合的な実施及び最終化,及びそれらの影響の評価に引き続きコミットしている。

我々は,金融システムにおいて生じつつあるリスク及び脆弱性を引き続き監視し,必要に応じ対処するとともに,継続的な規制・監督上の協力を通じて分断に対処する。

我々は,リスクが軽減されつつ,金融セクターにおける技術の潜在的な利益が実現されることを確保するための取組を強化する。

 

ここで述べているのは金融システム全体についてであり、仮想通貨に限定したものではありません。

しかし、今後の金融システムの変化にはデジタル経済が大きく関わり、そのために国際基準の合意、金融規制改革の遂行、生じるリスクへの対処が求められることは明らかです。

したがって、今後の国際的な仮想通貨規制は、このような前向きな方針で進むことが期待されます。

 

財務相の発言にも注目

さらに、今回のG20に伴って、財務相である麻生太郎氏は会見で以下のように述べています。

 

急速に進むデジタル化等の技術革新やグローバル化は、世界の社会・経済構造やビジネスモデルを大きく変化させてきており、これを健全な成長につなげるべく、国際経済システムの分断を避けつつ、政策面の対応を行うことは、先進国・途上国問わず直面する喫緊の課題である。

 

デジタル化の波により、社会や経済の構造が大きく変化していることを認め、さらに“健全な成長につなげるべき”と語っています。

これまでも日本は仮想通貨に積極的な姿勢を見せており、それほど驚くべきことではありません。

しかし、G20の姿勢と日本の姿勢が一致していることを確認できます。

また、麻生財務相は、

 

金融分野においては、金融市場の分断回避に向けた取組みを進めると共に、暗号資産への対応、分散型台帳技術等の技術革新がもたらす機会とリスクの両面への取組みを進める。

 

とも発言しています。

上記の声明文でも、麻生財務相の発言でも「分断」ということが言われていますが、これは法定通貨と仮想通貨が入り乱れることでの決済制度の分断や、それに起因する国際経済システムへの混乱を指しています。

この問題については以前から言われていることですから、引き続き取り組みを進めていくということでしょう。

 

 

FSBに対する動き

FSBとは、金融安定理事会のことであり、国際金融に関する措置、規制、監督などを担っている機関です。

2017年7月に開催されたG20ハンブルグ・サミットにおいても、

 

情報通信技術(ICT)の悪意のある利用が金融安定を脅かしうることを認識し,我々は,FSB の作業の進捗を歓迎するとともに,2017 年 10 月に現状調査に関する報告書を期待する。

 

として、FSBへの協力要請がなされていました。

また、今年7月の声明文でも、

 

我々は、FSB及び基準設定主体からのアップデートを歓迎するとともに、暗号資産の潜在的なリスクを監視し、必要に応じ多国間での対応について評価するための更なる作業を期待する。

 

と述べられています。

ここまで、「さらなる作業を期待する」というだけで具体性はありません。

 

人事に注目

今回の声明文では、

 

我々は,マーク・カーニー(Mark Carney)氏の FSB 議長としての働きに感謝し,ランダル・クォールズ(Randal K. Quarles)氏の FSB 議長への任命,及びクラス・クノット(Klaas Knot)氏の FSB 副議長への任命を歓迎する。

 

という文言が見られます。

ここで名前の挙がった3名について知っておくべきでしょう。

 

マーク・カーニー

マーク・カーニー氏は、イングランド銀行の総裁、そしてFSBの議長を務めた人物であり、仮想通貨肯定派の人物として知られます。

カーニー氏の発言を見てみると、3月のG20では、

 

“#fff”]仮想通貨は、現時点で世界的な財政の安定にリスクをもたらさない。

 

と発言しており、同じく3月の経済懇談会では、

 

“#fff”]我々はデジタル通貨の可能性について研究しているが、最新のRTGS(イングランド銀行の決済システムのひとつ)の見直しと新しいテクノロジーの組み合わせによって、決済システムの信頼性とリアルタイム処理、分散型P2P取引という社会的ニーズに応えていくことができる。

 

“#fff”]イングランド銀行は、ブロックチェーン技術はいずれ精度・効率性・安全性がかなり改善されていくと考える。

 

などの発言をしています。

同時に、G20でも認識している消費者と投資家の保護、マネーロンダリングやテロ資金供与、市場の健全性などに問題があるとしており、また

 

“#fff”]仮想通貨は、政府の信用で流通する法定通貨にとって代わる可能性は低い。

仮想通貨は短期的な価値の保存に弱く、支払方法としては受け入れられていない。

本当の通貨としてではなく、仮想資産として考えている。

 

とも述べています。

仮想通貨を全面的に肯定しているわけではないものの、この意見はあくまでも「仮想通貨を法定通貨と同等にみなすこと」を問題視しているだけであり、資産としての有用性を認めています。

総合的には好意的な見方をしていることが分かります。

 

ランダル・クォールズ

肯定派のマーク・カーニー氏の働きに感謝するとして、後任のFSB議長に任命されたのがランダル・クォールズ氏です。

クォールズ氏は現在、FRBの副議長を務めている人物であり、ブッシュ政権で財務次官を務めていた経歴もあります。

これまでの発言には目立ったものがありませんが、12月3日、FRB副議長の立場として、

 

“#eee” radius=”20″]仮想通貨は、ドルや金融安定の脅威を生まない。

 

との発言をしているようです。

また、これまでもFSBなどの国際機関に協調的な姿勢を示してきたことから、カーニー氏が議長を務めていたFSBの方針を踏襲するとも考えられます。

カーニー氏のように目立った発言はないものの、議長就任後、好意的な発言や取り組みがみられる可能性があります。

 

クラス・クノット氏

副議長に任命されるクラス・クノット氏は、欧州中央銀行政策委員会のメンバーであり、オランド中央銀行総裁でもあります。

副議長を3年務めたのち、FSB議長に就任の見通しとなっていますが、これがやや気になる人事です。

クノット氏は、今年3月のG20で以下のような発言をしています。

 

“#eee” radius=”20″]クリプトアセット(仮想資産)と呼ぼうが、クリプトトークン(仮想トークン)と呼ぼうが、決してクリプト通貨(仮想通貨)ではない。

どんな仮想通貨も、経済における通貨の3つの役割(価値の尺度になること、交換の手段であること、価値貯蔵の手段であること)を果たしているとは思えない。

 

これはつまり、G20の声明文でも言われている「暗号資産は、ソブリン通貨の主要な特性を欠いている」ということです。

仮想通貨を「通貨」とみなす人にとっては否定的な意見とも考えられますが、カーニー氏と同じように、仮想資産としての捉え方については問題としていません。

仮想通貨に対する肯定的な見解が見当たらないため、このような見方だけが目立つ形になっています。

これから3年の後、クノット氏がFSB議長に就任するときまでに、仮想通貨への認識がどのように変化しているかがポイントになりそうです。

 

以上のように、人事にも積極的な姿勢が垣間見えます。

仮想通貨に好意的なカーニー氏から、好意的なクォールズ氏へとバトンが渡されたことから、今後も前向きな姿勢で仮想通貨に取り組むことが期待されます。

また、クノット氏についても仮想通貨否定派と言えるほどの発言は見られず、資産としての在り方は認めています。

したがって、FSBの仮想通貨への取り組みに水を差すことは考えにくいでしょう。

 

 

FATFの動きは足踏み

FATFとは金融活動作業部会のことであり、マネーロンダリングやテロ資金供与といった問題に、国際的な対策を進めていく機関です。

こちらは、FSBへの呼びかけより早く、国際規制の中心に据えられてきました。

FATFへの要請は、3月の声明で、

 

テロ資金供与、マネーロンダリング及び大量破壊兵器拡散資金供与との我々の闘いは続いている。

我々は、FATF基準の完全、効果的、かつ、迅速な履行を求める。

我々はFATFに対し、大量破壊兵器拡散資金供与対策の取組の更なる強化を求める。

我々はテロリスト集団を支える金融網を撲滅するため、個別及び共同の取り組みをさらに進めることにコミットする。

 

とされており、マネーロンダリングやテロ資金供与への厳しい姿勢が表明されていました。

これを受けて、7月の声明でも、

 

FATF基準の実施に関する我々の3月のコミットメントを再確認し、2018年10月に、この基準がどのように暗号資産に適用されるか明確にすることをFATFに求める。

 

との声明が出されていました。

7月時点ではコミットメントを再確認するのみで、国際基準の適用は10月に延長されただけです。

また、10月を期限としていたものの、

 

犯罪やテロ行為への仮想通貨使用を防ぐための協調的な行動が、喫緊の課題として世界の全ての国に求められている。

 

FATFは仮想通貨資産サービスを提供する事業者のリスクを評価し適切な規制を行うため、ガイドラインの段階的更新を進めていく。

 

との報告がなされただけで、具体化には至っていませんでした。

今回のG20でも、FTFAに関する部分ではそれほど進歩が見られませんでした。

声明では、以下のように述べられています。

 

暗号資産に適用される形でのFATF基準の実施にコミットし、FATFによるこれらの基準の見直しに期待し、FATFに対し世界的な実施の推進を要請する。

 

これは、3月、7月、10月に言われていたことと大差ありません。

「期待する」「要請する」といったことしか述べられておらず、1年を通して足踏みの状態が続いているようです。

仮想通貨への認識は深まってきていますが、国際基準の設定や実施となると、容易には進まないものと思われます。

FATAは、2019年6月までに規制内容を明示すると発表しているため、そこに注目しておきましょう。

 

マネーロンダリングやテロ資金供与も足踏み

これまでも、最大の問題として取り上げられてきたのがマネーロンダリングやテロ資金供与といった、仮想通貨の悪用の問題です。

これについて、3月の声明では、

 

我々は、テロ資金供与、マネーロンダリング及び大量破壊兵器拡散資金供与との我々の闘いの強化にコミットする。

我々は、世界中でのFATF勧告の、完全、効果的かつ迅速な履行を求める。

我々は、マネーロンダリング及びテロ資金供与対策の基準設定主体として、FATFがその組織基盤、ガバナンス及び実施能力を更に強化することへの我々の支持を再確認する。

我々は、大量破壊兵器拡散資金供与に対抗する取組みの強化をFATFに求める。

 

とされており、7月も「3月の方針にコミットする」といった内容にとどまっていました。

今回の声明でも、

 

我々は,金融活動作業部会(FATF)基準に沿ったマネー ロンダリング及びテロ資金供与への対策のため,暗号資産を規制し,必要に応じて他の対応を検討する。

 

我々はあらゆる形態のテロに対する我々の強い非難を再確認する。

我々は,テロ対策に関するハンブルク G20 首脳声明の完全な実施にコミットする。

我々は,テロ資金供与や拡散金融,及びマネーロンダリングとの闘いにおける 我々の取組を強化する。

我々は,デジタル産業に対し,インターネットやソー シャル・メディアのテロ目的の利用との闘いにおいて共に取り組むよう促す。

 

との発言にとどまっています。

今回の声明では、2017年に開催されたハンブルグ・サミットの声明にコミットするということであり、言い換えればこの1年で方針に変化はなしということです。

仮想通貨を悪用する勢力への対処は遅れています。

2018年のハッキング被害の状況を見てみても、ハッカーたちはマネーロンダリングを成功させてきました。

北朝鮮がハッキングにかかわっているとの情報もあり、テロ集団をはじめとした危険分子に仮想通貨が悪用されている事実は否めません。

FATA基準に沿って対策していくとのことですが、肝心のFATA基準がなかなか定まらないため、ハンブルグ・サミットの方針を踏襲せざるを得なかったのでしょう。

こちらも、しばらく変化のない状況が続きそうです。

 

課税の問題について

最後に、課税の問題にも触れておく必要があります。

仮想通貨への課税は、国際的に税制がバラバラであり、脱税も問題視されてきました。

3月の声明では、

 

我々は、世界規模で公正、現代的な国際課税システムのための取組を続けるとともに、国際協力及び成長志向の租税政策を歓迎する。

我々は、「税源浸食と利益移転」パッケージの実施に引き続きコミットしており、これまでの進展を歓迎する。

 

経済の電子化が国際課税システムにもたらす影響は依然として重要な未決着の課題である。

我々は、経済の電子化が国際課税システムにもたらす影響を分析したOECD中間報告書を歓迎する。

我々は、2019年に進捗状況の報告を、2020年までに合意に基づいた解決策を追求すべく共に取り組むことにコミットする。

 

我々は、税の透明性について大きく進捗してきた。

本年、透明性基準及び税の情報交換の必要事項を実施するための更なる進展が見込まれる。

2018年中に税に関する金融口座情報の自動的交換を開始する予定の法域は、必要なすべての措置が期限内に講じられるよう確保すべきである。

我々は、すべての法域に対し多国間税務行政執行共助条約への署名及び批准を求める。

 

と述べられ、7月の声明でもおおよそ同じ意味の声明が出されています。

今回の声明においても、

 

OECD/G20「税源浸食と利益移転」パッケージの世界的な実施は引き続き不可欠である。

我々は,引き続き,経済の電子化が国際課税システムにもたらす影響に対処するため,201 9年の進捗報告及び 2020年までの最終報告書により,コンセンサスに基づく解 決策を追求すべく共に取り組む。

 

としており、大きな変化は見られません。

仮想通貨の税制については2020年を期限と定めているため、それに向けて税制の構築が加速するかもしれません。

現在の税制では、国内に拠点を持たない海外企業には課税できない仕組みになっており、租税回避・脱税が問題視されてきました。

この問題を解決することが狙いです。

どのような税制になっていくかにもよりますが、仮想通貨規制を前向きに捉え始めた流れを見ると、税制への取り組みが仮想通貨市場の健全化につながる可能性が高いです。

 

日本の税制に影響はあるか

また、国際的な課税への取り組みを通して、それぞれの国で共通認識が生まれてくれば、国ごとの税制の乖離も少なくなってくるかもしれません。

現在の日本では、仮想通貨取引による収益は雑所得となり、最大で45%もの課税となります。

株やFXによる所得が一律約20%であることと比較すれば、かなり条件が悪いと言えます。

また、値上がりした仮想通貨で決済した場合や、仮想通貨同士を交換する場合にも課税されること、損失が繰り越されないことなども問題となっています。

税制が進んでいるフランスでは、仮想通貨所得への課税率は19%であり、社会保障などを加味した実質最高税率も36.2%(日本の実質最高税率は約55%)となっています。

もっと進んでいるシンガポールでは7%、マレーシアに至っては6%となっており、世界的にかなりの差が生じていることが分かります。

日本の税制には疑問が多く、日本の投資家は他の国の投資家よりも不利な状況に立たされています。

これによって仮想通貨への不信感が募ってくると、日本国内ではブロックチェーン・仮想通貨などの産業が成長しにくくなります。

これからの時代は、このような新興技術を積極的に育てていかなければ、日本経済は遅れを取ってしまう可能性が高いです。

国際的な税制に取り組む中で、日本がこの点に気づいて税制を見直す動きが出てくれば、税率の引き下げや特別措置の適用などが可能となるかもしれません。

今以上に悪くなるよりも、良くなる可能性が高いように思います。

 

まとめ

今回のG20の声明は、総合的に見渡してみれば、それほど大きな変化は見られませんし、市場への影響も軽微です。

しかし、2017年の声明、今年3月と7月の声明、そして11月30日~12月2日までの今回の声明によって推移を見ていくと、徐々に良い方向へと進んでいるように思います。

大きく進んでいるとはいいがたいものの、2018年という仮想通貨市場が低迷を続けた1年間を通して、仮想通貨への認識がマイナス方向ではなく、プラス方向へと進んできたことは大いに評価すべきでしょう。

課題はまだまだ山積みですが、これからの流れにも期待が持てそうです。

 

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