ビットコインをはじめとした仮想通貨の普及が広がりつつある昨今ですが、仮想通貨が普及したら何が変わるのでしょうか。
私たち一個人の生活に与える影響としては、支払いが簡便になる、投資対象が増える、送金が楽になるといったメリットがあるのですが、社会にはどのような影響があるのでしょうか。
本稿では、仮想通貨の誕生によってどのような変化がもたらされるのかを見ていきます。
仮想通貨で何が変わる?
まだ日本では仮想通貨についてあまり知られていなかった2014年初頭、ニューヨークタイムズに興味深い記事が掲載されました。
ウェブブラウザ「モザイク」を開発した、マーク・アンドリーセンの記事です。
その記事は、アンドリーセンがビットコインの可能性を語ったものでした。
アンドリーセンが特に注目していたのは、ビットコインの安全性の高さと送金コストの安さです。
安全性が高く、送金コストが安いことによって、従来の通貨ではできなかったことができるようになり、ビットコインを活用して企業活動やサービスを展開することによって、社会に革命が起きると論じられていました。
従来の通貨を、銀行などの金融機関を通じて送金した場合のコストは、先進国でも送金額の2~3%が相場となっています。
しかし、ビットコインは送金コストが非常に安く、ゼロに近くなります。
一個人の感覚では、「1万円につき200~300円の手数料が数十円になったところで、たいして変わらないのでは?」と思うかもしれません。
しかし、企業活動で考えると、利益率が2~3%以下の事業でも成立することになります。
つまり、現在の送金システムでは、成立することができなかった事業が成立する可能性が出てくるのです。
分かりやすいのは、マイクロペイメントと言われる、少額の支払いでしょう。
あまりに少額であれば、送金コストの方が上回ってしまうため、これまでは成立させるのが難しかったのですが、ビットコインでそれが可能となります。
例えば、100円未満の課金での有料コンテンツなどが良い例でしょう。
これまでは、このような少額でコンテンツを切り売りすることができなかったため、インターネットサイトなどでコンテンツを無料で提供し、その代わりにサイトにはバナー広告を掲載し、広告収入を得るという方法が主流でした。
しかし、マイクロペイメントが可能となりコンテンツを切り売りできるようになれば、あの目障りなバナー広告を一掃することもできるかもしれません。
インターネットが普及してからというもの、コンテンツを販売する産業には様々な問題がありました。
結局のところ、有料での販売が難しく、無料で販売する代わりに広告収入などを得たほうが良いという考え方が根強くあったのです。
しかし、仮想通貨の登場によってこれが大きく変わるかもしれません。
また、発展途上国では、先進国に比べて送金コストがかなり高くなっています。
銀行システムが確立されていない地域になると、送金が不可能な場合もあります。
しかし、ビットコインでの送金は銀行システムに依存することがなく、発展途上国でも安いコストでの送金が可能となります。
ビットコインをはじめとした仮想通貨は、発展途上国の経済にも良い影響を与える可能性を秘めているのです。
eコマースへの影響
インターネットが普及し、私たちは日常的にインターネットで買い物をするようになりました。
私にしても、食品などは近所のスーパーなどで買うのですが、それ以外のあらゆるものをインターネットで購入しています。
しかし、日本における個人向け電子商取引の市場規模は、2012年のデータで10兆円弱です。
これは、個人家計消費が300兆円であることを考えると、全体のたった3%に過ぎません。
わずか3%にとどまっている大きな理由の一つにも、送金コストが挙げられます。
実店舗に行って買い物をすれば生じないコストが、オンラインショップでは発生してしまうのです。
クレジットカードで支払った場合にも、店舗側の負担が発生します。
そのため、少額の買い物をする場合には、実店舗で買った方が安くなることが少なくありません。
もちろん、インターネットで日常的に買い物をする人であれば、より安く買う方法を熟知しており、巧に検索して中古品や訳アリ商品を見つけたり、卸値で買うなどして、実店舗よりも安く買うことができるでしょう。
それができない人にとっては、実店舗で買った方が安い場合が多々あるのです。
しかしながら、少額のオンラインショッピングでも、送金コストがゼロ近くまで下がれば、状況は大きく変わってくることでしょう。
ビットコイン決済を導入するための初期費用はほとんどかかりませんし、小規模な店舗でも始めることができます。
ごく少額の支払いでも、送金コストによって割高になることが避けられれば、取り扱える商品も増えます。
その結果、実店舗では面積の関係から陳列できなかった商品を、ウェブで簡単に購入できるようになります。
例えば、建築資材や電気部品などは、細かく種類が分かれているため、実店舗で網羅することが難しいのですが、インターネットではそれが可能です。
送金コストが安くなり、少額の決済にも対応するようになれば、eコマースは大きく変化するはずです。
とはいえ、商品によっては、実際に手に取って見てみたいという商品もあります。
靴や服は実際に試着してみたいという人が確実にいますし、本などにしても一度パラパラと見て、購入を決めるという人もいます。
このように、手に取って見る必要がある商品となると、これからも実店舗での販売が続くはずです。
今後は、仮想通貨と現金のすみ分けが少しずつ整備されていくものと考えられます。
国際送金とビットコイン
送金コストが安いという特徴がより顕著に表れるのは、国際間での送金です。
ビットコインを利用するならば、地球上のどこへでも、ほぼゼロコストで送金が可能です。
国際送金をしたことがある人ならば、この意義の大きさを実感することと思います。
具体的にはどのような変化が期待できるのかと言えば、貿易決済の変化です。
現在、貿易における決済では、信用状決済(貿易では輸送に時間がかかるため、商品の引渡と代金の決済でタイムラグが生じることから、信用状を発行することでひとまずの決済とする方法)を用いる場合には手数料がかかり、銀行送金の場合には送金手数料がかかります。
そこで、ビットコインを利用したならば、これらの手数料はほぼゼロになります。
送金を即座に行なえば信用状は不要となって手数料はかからず、銀行を介さずに送金すれば送金手数料はかからないからです。
また、これらのコストの中には、スプレッド(外貨の買値と売値の差によるコスト)も生じるのですが、ビットコインを利用すれば外貨に交換する必要がないため、スプレッドの負担もゼロになります。
と言っても、現在はまだビットコインの価格が安定しておらず、価格変動が大きい状況です。
したがって、ドルや円といった法定通貨と交換した際に大きく利益が変動することも考えられます。
このほか、サイバー攻撃の危険は少ないとはいえ、リスクはゼロではありません。
このことから、貿易決済にビットコインを利用した場合には、価格変動の影響とサイバー攻撃のリスクを避けるために、保有期間をできるだけ短期とする必要があります。
そのためには、ビットコインと法定通貨を両替する必要がありますから、そこにコストがかかってきます。
とはいえ、かかるコストの総額を比較した場合、ビットコインを利用した場合の方がかなり安くなることだけは間違いありません。
現在、国際送金はほぼ銀行が独占しており、それだけに手数料も高く設定されています。
そこへ、ビットコインを利用する流れが出来上がり、両替所が多数設立されたならば、両替所同士の競争によって手数料は下がってくるため、コストはもっと低くなっていくはずです。
このほか、輸出業者の立場から見てみても、ビットコインの導入によって即座に代金を回収することができます。
通常、貿易にせよなんにせよ、代金を回収するまでの期間が短ければ短いほど、資金繰りは良くなります。
以上のように、ビットコイン決済を導入することによって、貿易は大きく変わることでしょう。
ビットコインを導入してコストの引き下げに成功した貿易業者と、そうしない貿易業者では、あきらかに差が生じるからです。
それが貿易業界の潮流となれば、生き残りのためにビットコインを導入する業者が相次ぐはずです。
関連サービスの広がり
以上のように、ビットコインがもたらす経済効果は非常に大きいといえます。
経済効果が大きく、欠陥は少なく、また今後欠陥もどんどん解消されていくとするならば、利用者が広がらないはずはありません。
利用者が広がれば、関連サービスもたくさん誕生することでしょう。
貿易ならば、貿易企業向けに特化した両替サービスが成立するかもしれませんし、企業間で巨額の送金をする場合に特化した仮想通貨も出てくるかもしれません。
個人的には企業間送金を担う仮想通貨はRipple(リップル)になるだろうと思っています。
ビットコインに関して言うならば、企業間の取引だけではなく、個人の消費にも役立つものと考えられます。
個人の利用では、顕著なコスト引き下げ効果を実感できないことも多いでしょう。
だからこそ、多少安くなるとわかっていても、安心して使える現金を利用し続ける人も多いと思います。
しかし、企業はコスト削減に敏感です。
コストを削減すれば、確実に利益は増えます。
競争が激しい業界であればあるほど、ビットコインを採用しようとする動きは高まってくるでしょう。
とはいえ、銀行送金の手数料を嫌ってビットコインに移行するということは、銀行の利益を明らかに損なう流れであり、銀行にとっては由々しき事態です。
貿易だけを見てみても、全世界の貿易規模は1500兆円程度の規模があり、銀行が外国為替業務によって得ている利益は、仮に手数料が3%であるとしても45兆円にのぼります。
貿易業者の1割がビットコインに移行しただけで、銀行の利益は4.5兆円も目減りすることになります。
このことから、銀行でも仮想通貨をうまく活用することによって、なんとか利益を維持しようとする動きがあります。
メガバンクが独自に仮想通貨を開発し、取引のある企業に導入してもらえば、仮想通貨が企業間決済の主流になったとしても、銀行は利益を得る機会があります。
このほかにも、様々な取り組みが出てくるはずです。
まとめ
ビットコインをはじめとした仮想通貨を肯定するか、否定するか、それは判断する人の置かれている状況などによっても大きく変わってくることと思います。
しかし、仕組みを正しく理解していなければ、否定するも肯定するも、正しい判断はできないものです。
とはいえ、仮想通貨は従来になかった、非常に斬新なものです。
だからこそ、知識を得ようと思っても、「そんな都合のいいものが本当にあるのか?」と、戸惑ってしまう人も多いことでしょう。
しかし、革新的な技術が登場した時というのは、それが普通の反応だといえます。
現在、私たちが当たり前のように使っており、必需品となっているインターネットにしても、同じ反応が見られました。
コストをかけずに世界中の人に瞬時に手紙(メール)が送れるとか、写真が送れるとか言ったことは、当時の人達にはとても信じられなかったことだったのです。
それでも、実際にインターネット社会は実現することになりました。
「もし出来たら世界は変わるけど、そんなことできるはずがない」と言われていましたが、実際に実現し、世界を変えてしまったのです。
それが今、通貨の世界で起ころうとしているのです。
ただし、インターネットと比較すると、経済も深く絡んでくることであり、理解することが難しい分野でもあります。
理解のために知っておくべき専門用語にしても、最近登場した用語も多く、理解が難しく誤解は広がり、誤解を正すことも容易ではないと思います。
だからこそ、当サイトでは、専門用語を交えて非常に深い理解はできないにしろ、少なくとも安心して利用することができるくらいの、基本的な理解をしてもらうことに努めています。
当サイトの記事を、広く読んでいただけると幸いです。