リブラ構想の公表から3ヶ月。抱える問題を深掘りする

リブラ(libra)

今年6月18日、フェイスブック社が独自通貨・リブラのホワイトペーパーを公表してから、まもなく3ヶ月になります。

公表直後から大きな反響があり、国際経済・金融の中枢では強い懸念を表明してきました。

ただし、その懸念について詳しい声明は出されておらず、リブラの問題とは何であるのか、分かりにくい状況が続いています。

リブラの公表から現在まで、多くの識者が述べてきました。

本稿では、それらの意見をまとめることで、リブラの問題を深掘りしていきます。

リブラの公表からまもなく3ヶ月

今年6月、フェイスブック社が仮想通貨・リブラのホワイトペーパーを公表し、大きな話題となりました。

当初、仮想通貨業界は好感を以てリブラを迎えました。

その理由の多くは、リブラの普及によって、既存の通貨からデジタルな通貨への移行がスムーズになり、仮想通貨全般に対する世間の意識も変わり、普及につながると考えられたためです。

リブラ構想では、新技術の活用によって利便性が向上することを目指しています。

技術の発展のためにも、積極的な活用は欠かせません。

科学の歴史は、一面において「利便性の追求の歴史」でもあるのですから、リブラ構想が利便性の向上を目的とすることも問題ないでしょう。

しかし、リブラに対する否定的な意見も強く、特に既存の金融システムの当事者においては、リブラが金融・経済に混乱を引き起こす可能性があるとして、強い懸念を示しています。

各国の政府や規制当局、中央銀行などは、強力な規制が必要であるのと見方で一致しています。

これは、リブラが国際的な通貨制度、各国の金融政策といった、いわば世界の金融・経済を支えている仕組みを崩壊させる危険性があるためです。

しかし、この危険性に対処するために、規制や国際監視ルールがどうあるべきか、具体的な方法論として語られることはなく、単に懸念を表明するに留まっていました。

リブラのホワイトペーパーが公表された直後のG20でも、「規制すべきだ」という表面的な基本方針が打ち出されただけです。

このため、リブラへの規制がどのような方針で進められるのか、これによって仮想通貨業界がどのように影響を受けるのかについて、見通しをつけることが難しい状況です。

リブラのホワイトペーパーが公表されてから、まもなく3ヶ月が経過します。

強い懸念があることから、たった3ヶ月の間に急速に議論が進められたことで、規制のあり方や国際監視ルールについて、具体的に語る識者も増えています。

それを知ることによって、リブラを否定する根拠を深く知ることができます。

現状では、このような識者の意見が、今後の規制の方針を知る唯一の手がかりと言って良いでしょう。

これを頼りに、リブラによって懸念される影響を、以下で具体的に見ていきます。

金融政策への影響

リブラに対する懸念のうち、最も大きなものは金融政策への影響です。

現在の制度では、中央銀行が金融政策を実施することで、経済の安定を図っています。

このことは、中央銀行の機能の一部を見るだけでも理解できます。

例えば、各国の中央銀行は銀行券(法定通貨)の発行権を持っており、これによって通貨発行益を得ています。

具体的には、中央銀行は発行した銀行券を使い、中央政府が発行する国債を買い入れたり、民間の銀行に貸し付けたりします。

発行された銀行券は負債に計上され、国債や貸出金は資産に計上されるため、無利子の負債と有利子の資産が同額となり、利息分だけ利益になります。

これを、通貨発行益といいます。

中央銀行は、利益の追求のために通貨発行益を得ることができません。

それが認められてしまうと、通貨発行益を得るために需要を上回る銀行券が発行され、過度なインフレを引き起こす可能性があるためです。

このため、銀行券は需要相当を発行上限としているほか、中央銀行が得た通貨発行益は公共に還元すべきという考えが根底にあり、国庫に納付することが義務付けられています。

納付金の使途も、公共サービスの原資などに限られています。

通貨発行益は、金融政策の柱として重要なものです。

政府が、財政収入を得るために国債を発行するとき、中央銀行が銀行券を発行して国債の買い入れを進めることが大きな意味を持ちます。

国債は、返済されるという信用がなければ成り立ちません。

財政収支が赤字の政府では、償還のための原資が不足していますが、デフォルトを起こせば国債が暴落し、経済に大きな混乱をきたします。

そこで、償還のための原資をさらなる国債の発行で賄うわけですが、ここでも中央銀行が国債を買い支える「国債買い切りオペ」が重要となります。

このように、中央銀行の銀行券発行と通貨発行益は、金融政策に大きな影響をもちます。

通貨発行益の元となる銀行券は、法定通貨への需要によって発行上限が決まるのですから、リブラが普及することで法定通貨の需要が減っていけば、銀行券の発行上限も減っていきます。

当然ながら、発行できる銀行券が少なくなれば、国債の購入や、民間銀行への貸し出しも減ります。

国債買い切りオペによってデフォルトを防ぐことも難しくなりますし、民間銀行が中央銀行から資金を調達し、民間に投融資することも難しくなります。

国庫に納入される通貨発行益が減ると、財政収支の悪化につながります。

また、リブラ協会はリブラを発行し、裏付け資産として法定通貨や国債を買い入れることで、中央銀行の通貨発行益に相当する利益を得ることができますが、これを国庫に納付することはなく、リブラ協会の運営費に充てるとしています。

以上のように、中央銀行とリブラ協会では、通貨の発行によって経済に与える影響が大きく異なります。

リブラが、利便性の高い通貨として機能することで、中央銀行の金融政策が効果を失い、経済が混乱し、利便性どころの話ではなくなる危険性があるのです。

リブラが認められ、普及してくためには、金融政策への影響を抑え込むための規制が絶対的に必要となります。

そのような規制を作り上げることは容易ではなく、リブラ構想が強く抑えつけられる最大の原因となっています。

国際通貨制度への影響

次に、国際通貨制度への影響も懸念されています。

現在の国際通貨制度は、各国の中央政府が発行する法定通貨が、うまく循環することで成り立っています。

各国の法定通貨は、時に不安定な状態に陥ります。

戦争、政治体制の崩壊、金融危機などによって中央銀行が機能しなくなり、自国の法定通貨が信用を失えば、自国の経済に大きな混乱が起こります。

これが、国際経済に与える影響も少なくありません。

例えば、ベネズエラではハイパーインフレが起こり、国民が自国通貨を信用しなくなりました。

資産を守るために、ビットコインが盛んに買われたことも記憶に新しいです。

もっとも、ベネズエラのビットコイン需要は、ベネズエラの通貨制度を安定させる動きではなく、単なる資産防衛の動きにすぎません。

ハイパーインフレが吹き荒れる状況では、早急に資産を防衛するためにはビットコインも有用ですが、実用性を考えると米ドルが圧倒的に優れています。

自国通貨の信頼が崩壊した時、普通であれば米ドルによって代替されます。

米ドルは基軸通貨であり、極めて信用が高いため、国民は自国通貨をドルに替えて決済・預金・納税などに使うのです。

ドル化が起こった国では、ドルの流通を認めることもあります。

これを「ドル化」といいます。

もし、リブラが普及し、利便性の高い決済手段として確立されれば、自国通貨の信用が崩壊した国では、ドル化ではなく「リブラ化」が起こる可能性もあります。

しかし、自国通貨を他の通貨によって代替する点では同じでも、アメリカの中央銀行が信用を担保するドルに代替する場合と、リブラ協会が信用を担保するリブラに代替する場合とでは大きく異なります。

現在、仮想通貨は決済手段として一般的ではなく、膨大な決済に技術的に耐えうる保証がありません。

一国の通貨が全てリブラに代替され、国内外で膨大な決済に使われたとき、処理しきれない可能性があります。

また、決済処理に問題は起きないドルでも、自国経済がアメリカの中央政府の金融政策に左右されたり、自国通貨を放棄することで通貨発行益を得られなくなったり、自国通貨とドルが対立して一国二通貨体制の弊害が起きたりと、様々なデメリットがあります。

基軸通貨で代替するドル化でさえ多くの問題を抱えているのですから、リブラ協会が発行する新興のデジタル通貨・リブラであれば、ドル化以上に深刻な問題が起こるかもしれません。

また、自国通貨の信用が崩壊した国がドル化する流れから、リブラ化する流れに切り替わることで、為替相場や国債市場にも必ず影響が出てくるはずです。

安定性への不安

リブラは仮想通貨の一種でありながら、ビットコインなどの一般的な仮想通貨とは大きな違いがあります。

それは、多くの仮想通貨が今や投機の対象となっているのに対し、リブラは決済手段として普及し、既存の通貨の代わりになる可能性があることです。

リブラは、ステーブルコインとして機能します。

リブラの価値は、既存の法定通貨を裏付けとしているため、法定通貨の範囲内でしか発行することができず、価格が極端に変動しにくいのが特徴です。

だからこそ、価格変動によって利益を得ようとする、投機の対象にはなりにくいのです。

しかし、これを以て本当にリブラが安定しているのかといえば、そうとも言い切れません。

まず、リブラは世界中で利用されることを目指しており、リブラ協会がリブラを監督することになります。

各国における中央銀行的な存在になるわけですが、複数の企業によって構成されるリブラ協会がどれほどの監督機能を持っているのか、存続性はどうであるのか不明です。

少なくとも、一国の中央銀行に比べれば、監督機能も持続性も劣っていると考えるのが自然です。

中央銀行よりも破綻する危険性が高いと言えますが、リブラ協会が破綻した際のルールは定まっていません。

また、通貨としての安定性にも疑問が残ります。

法定通貨の安定を図るのは中央銀行ですが、リブラには安定へ導く中央銀行が存在しません。

リブラ協会が、裏付け資産の構成を決めることで安定を図ることはできますが、中央銀行のように公的な働きかけによって安定させることはできず、アルゴリズムだけが頼りです。

暗号技術はまだまだ発展途上にあるため、アルゴリズムだけを頼りにしている体制は、はなはだ心もとないといえます。

不正利用の懸念

最後に、マネーロンダリングやテロ資金供与、脱税・租税回避といった問題への懸念があります。

リブラでも、他の仮想通貨でもそうですが、仮想通貨は透明性を問題視されています。

仮想通貨は、ブロックチェーン技術によって、取引記録が全て記録されることから、透明性に優れています。

もちろん、取引記録が残っており、改ざんできない仕組みによって、記録をたどることで不正取引を特定することができます。

この点では、不正の防止に役立ちます。

とはいえ、これまで起こったハッキング被害を見ても、ブロックチェーンの取引記録によって、流出した仮想通貨を追跡することはできたものの、途中で足取りが分からなくなる、犯人を特定できないといった結果に終わっています。

このため、ブロックチェーン技術を用いているリブラには一定の透明性があるものの、不正防止のための機能は不十分と言えます。

米同時多発テロが起きた2001年以降、国際銀行システムの透明性を確保するために、世界中の銀行で取り組みが進められてきました。

これも十分とは言えませんが、約20年をかけて透明性が大きく高まったことは事実です。

透明性の確保に努めてきた銀行でも不十分であるのに、銀行でもないIT企業が透明性を確保できると主張したところで、素直には受け入れられないのが普通です。

サイバー攻撃によって仮想通貨の流出が後を絶たず、不正の技術が不正防止の技術を上回っている現状を見ても、リブラが不正に利用されないとは言い切れません。

仮にリブラが認められるとしても、決済手段である以上、リブラもマネーロンダリングその他の不正利用を防ぐために、国際ルールに従うことになるでしょう。

例えば、一定額以上の送金では厳しい本人確認が求められるなど、様々な制限が課せられるはずです。ルールの準拠に伴い、手数料も発生します。

そうなれば、リブラの最大のメリットである手軽さやコストの低さが損なわれ、魅力がなくなります。

最近では、既存の通貨を通じて、送金を効率化する取り組みも進められています。手軽さや低コストといったメリットを失えば、多くの人はリブラよりも既存の通貨を選ぶでしょう。

リブラ構想の中心となるフェイスブックは、情報管理で糾弾された過去もあり、リブラの安定性・安全性も不安となれば、安定性・安全性が確保されており、慣れ親しんだ通貨のほうが魅力的であり、リブラが普及していく余地はなくなっていくと考えられます。

仮想通貨業界には良い影響も

現在、仮想通貨業界ではリブラの話題も落ち着き、リブラに強い期待を抱く声は少なくなっているように思えます。

ただし、仮想通貨業界が当初抱いた「仮想通貨の普及・認知の向上につながる」という期待は、ある程度期待通りになっているとも言えます。

リブラの反響は大きく、新聞や経済誌などで取り上げられることも多く、その周辺でビットコインに関する記事が掲載されることも増えているためです。

日経新聞などでも、リブラ周辺の話題がしばしば取り上げられています。

広く普及している媒体を通じて、多くの人が仮想通貨を知る機会を得られるようになったのです。

もちろん、このような媒体では総じてリブラに否定的であり、仮想通貨に対しても積極的に肯定する意見はあまり見られません。

しかしながら、リブラへの否定に始まり、それと対比する形でビットコインなどのポジティブな特徴が語られることもあります。

リブラには逆風が続いているものの、これをきっかけに仮想通貨に興味を抱く人が増えたり、仮想通貨を正しく理解する人が増えることになれば、仮想通貨業界全体にとっては良い流れといえます。

リブラは、仮想通貨業界全体にとって、良くも悪くも様々な影響を与えています。

今後も注目しておくべきでしょう。

まとめ

識者の見解によって、リブラが多くの問題を抱えていることが分かります。

リブラには、既存の金融制度を脅かす可能性があるため、強く懸念されているのです。

仮想通貨やデジタル決済は、技術面では大いに伸ばしていくべき分野です。

しかし、フェイスブック社は早期のローンチを目指して動いています。

技術の醸成に伴って、既存のシステムを良い方向で、徐々に変化させていくのではなく、混乱を招く可能性があるならば、金融システムの当事者は待ったをかけるほかありません。

本稿で述べた懸念のうち、不安定性と不正への懸念は、リブラだけではなく、多くの仮想通貨に共通することです。

これらの懸念にどう対処していくか、国際的な規制の動きには注目しておきましょう。

コメント

タイトルとURLをコピーしました