アメリカが政策金利を引き下げ。仮想通貨市場への影響は?

国の動き

先日、アメリカでは約10年半ぶりに、政策金利が引き下げられました。

また、この引き下げに先だって、今年5月から長短金利差がマイナスとなっています。

このことから、景気後退局面に突入したことが懸念され、株式市場などでは不安が広がっています。

一方、仮想通貨市場では、アルトコインの値動きは鈍いものの、利下げと同時にビットコインは上昇に転じています。

政策金利の引き下げが、ビットコイン価格を押し上げる要因の一つになっている可能性も考えられます。

本稿では、アメリカの政策金利の動向が広く市場に与える影響と、仮想通貨市場に考えられる影響、投資判断に役立てる考え方などについて解説していきます。

アメリカが政策金利を引き下げる

先月、一時的に大幅な下落を見せた仮想通貨市場ですが、特にビットコイン価格において、8月に入ってから急速な回復を見せています。

7月31日時点では105万円前後で推移していたビットコイン価格は、8月6日には130万円に迫る上昇を見せました。

その後は横ばいを続けているものの、8月13日現在も120万円程度で推移しています。

この背景には、米中貿易摩擦をはじめ複数の要因が考えられるのですが、8月1日から上昇していることを考えると、アメリカが8月1日に政策金利の引き下げを発表したことも、影響していると考えられます。

政策金利とは?

世界的な景気は一定のサイクルで動いており、そのサイクルは常にアメリカから始まるといわれます。

そして、そのサイクルを知る手がかりとして重視されるのが、アメリカの政策金利です。

政策金利とは、中央銀行が金融政策によって、景気を安定的に拡大させるために設定する基準金利です。

簡単に言えば、中央銀行が一般の銀行に融資する際に設定される金利でもあります。

政策金利を変えることによって、流通するお金を調節することができます。

政策金利が上がれば銀行の調達コストも高まり、企業や個人に貸し付ける金利も高くなるため、企業が事業性資金を融資によって調達したり、個人が住宅や自動車の購入のためにローンを組むことも減り、お金の流通が減ります。

また預金によって得られる利息も高まるため、企業や個人は手元のお金を銀行に預けるようになります。

これも、お金の流通が減ることにつながります。

逆に、政策金利が下がれば銀行の調達コストも下がり、企業や個人がお金を借りやすくなり、特に企業の設備投資などが活発化します。

また、預金で利息を期待するよりも、株式や債券といった金融商品によるリターンを期待する動きが強くなるため、お金の流通が増えます。

このように、景気が良い場合には政策金利を引き上げて金融の引き締めを行い、景気が悪い場合には政策金利を引き下げて金融の緩和を図ることによって、景気の行き過ぎを防いでいくのです。

したがって、政府が政策金利を引き上げた際には景気が良い、引き下げた際には景気が悪いと考えることができます。

金利は「炭鉱のカナリア」

アメリカの景気サイクルを示す指標にISM製造業景況指数があり、これは50のラインを下回るほど景気が悪い、上回るほど景気が良いとみなします。

ISM製造業景況指数の歴史を振り返ると、1987年のブラックマンデー後に急降下して50を割り込み、1991年の湾岸戦争の時には40前後に達しています。最近では、2002年のITバブル崩壊の際にも40近くまで下がっており、2008年のリーマンショック後にも急降下して40を大きく割り込んでいます。

そして、ISM製造業景況指数と高い相関性を示すのが、アメリカの政策金利です。

2000年までに、アメリカの政策金利は6.50%まで上昇していますが、ITバブル崩壊直前の2001年1月には6.00%に引き下げられ、これは2001年9月に起こったアメリカ同時多発テロよりも早い段階での利下げです。

同時多発テロの後、2002年にITバブルが崩壊し、アメリカのIT関連失業者数は56万人に達しています。

景気の失速を受けて、アメリカでは政策金利を急ピッチで引き下げます。

2002年11月には1.25%まで引き下げられており、2003年には1%まで落ち込んでいます。

その後、景気が徐々に回復したことにより、2004年7月には1.25%へと利上げを実施します。

これを皮切りに、2006年6月までの2年間で実に17回もの利上げを行い、政策金利は5.25%まで上昇しています。

利上げペースを見ると、この時期は大変な好景気であったことが分かりますが、2006年からアメリカの住宅価格は頭打ちとなり、景気の好循環が崩れ始めました。

FRBは、景気後退局面の直前である2007年9月に政策金利を4.75%へと引き下げ、2008年5月までに2%へと引き下げられています。

そして2008年9月15日、サブプライム・ローン問題によって、アメリカの大手金融機関であるリーマン・ブラザーズが破綻しました。

かの有名な「リーマンショック」です。

当時の株式市場を見てみると、2008年9月29日にアメリカ政府が緊急経済安定化法案を提案したことで世界的な金融不安が起こり、この日のダウ平均株価は史上最悪の777ドルの下落となりました。

日本でも、リーマンショック直前の2008年6月には14000円台であった日経平均株価が、わずか4ヶ月後の10月にはザラ場で一時6000円台をつけるほどの大暴落に至っています。

注目すべきは、ITバブルの崩壊でも、リーマンショックでも、それに先だって政策金利の引き下げが行われているということです。

つまり、政策金利が引き下げられたときに、暴落を警戒して市場から資金を引き上げていれば、大暴落と損失を避けることができたのです。

あるいは、空売りを仕掛けることで大きな利益を得られた可能性もあります。

これが、政策金利が「炭鉱のカナリア」とも呼ばれる理由です。

今回の利下げが騒がれる理由

アメリカは、先日8月1日の政策金利発表において、政策金利を2.50%から2.25%へと引き下げています。

2008年12月に0.25%まで引き下げられた時期を起点とすると、利下げが実施されたのは約10年半ぶりのことです。

これを「炭鉱のカナリア」が鳴いたと考えるのは自然です。

このことは、

 

  • NYダウ平均が26864.27ドル(7月31日終値)から25717.74ドル(8月5日終値)へと1146.53ドルの下落
  • 日経平均株価が21521.53円(7月31日終値)から20516.56円(8月7日終値)へと約1000円の下落
  • 金先物価格が1437.80ドル(7月31日終値)から1519.60ドル(8月7日終値)へと約80ドルの上昇

 

といった動きからも、利下げへの警戒が良く分かります。

しかし、今回の利下げが騒がれているのは、政策金利の引き下げだけではありません。

長短金利差でも悪いサインが出ていることに注目すべきです。

長短金利差とは、短期金利(=政策金利)と長期金利の乖離のことです。

長期金利は、短期金利に先行して動きます。

利下げによって短期金利を低い状態に据え、景気を慎重にコントロールし、徐々に景気が回復しているタイミングでは、長期金利が先行して上がり、長短金利差のプラス乖離は拡大していきます。

景気への懸念が薄らいで利上げが実施されると、短期金利が長期金利に追従していく形となり、長短金利差は縮小していきます。

その後、好循環に陰りが見え始めると、長期金利は短期金利に先行して下がり始め、やがて短期金利を割り込み、マイナス乖離が発生します。

長短金利差がマイナスになったとき、景気減速局面が本格的に到来します。

ここで、政府は政策金利の引き下げを実施し、短期金利は長期金利を追い、やがて長短金利差のマイナス乖離が解消されます。

ここから、再び景気が上向いて長期金利が上昇を始め、長短金利差のプラス乖離は拡大していき・・・というのが基本サイクルです。

これまでの歴史を見ると、長短金利差がマイナスになった後、やはり経済的に大きな出来事が起こっています。

2000年以降を見てみると、長短金利差がマイナスになったのは2000年4月です。

4月、5月はプラスとマイナスを行き来していたのですが、5月半ばから2001年3月まではマイナスの状態が続き、-1%を割り込む局面もありました。

その後、上述の通りITバブル崩壊に至っています。

リーマンショック前を見ても、2006年7月から2008年1月までマイナスの状態が続き、やがてリーマンショックが発生しています。

単に政策金利だけを見れば、必ずしも利下げが大暴落の前兆とは言い切れないのですが、長短金利差のマイナス乖離の後に利下げが実施されているとき、景気悪化への懸念は特に大きくなると言えます。

以上のことを踏まえて、今回の利下げはどうでしょうか。

アメリカの10年国債利回り(長期金利)と政策金利(短期金利)で見てみると、3月に長短金利差がマイナスとなっています(週次データで、3月17日の長短金利差が-0.06%)。

その後、わずかにプラスを維持していたものの、5月には再びマイナスに転落し、現在に至っています。

8月12日の10年国債利回りは1.656%ですから、政策金利を2.25%へ引き下げても-0.594%の差があります。

長期金利がすぐに上昇に転じるとは考えにくいため、この乖離を埋めるために政策金利の引き下げが続くと考えるのが妥当でしょう。

杞憂ならば、それに越したことはないのですが、ITバブル崩壊やリーマンショックと同じ傾向を示しているため、十分に警戒しておく必要があります。

仮想通貨市場への影響

冒頭で述べた通り、この警戒がビットコインの上昇につながっていると考えることができます。

もっとも、ビットコインの歴史は浅く、ITバブル崩壊やリーマンショックの頃にはまだ存在していなかったため、これらの金融危機と金利の関係を以て、ビットコインや仮想通貨市場への影響を断言することは困難です。

しかし、利下げや長短金利差のマイナス乖離が不安を引き起こし、リスク資産から安全資産へ資金を移す動きが高まっています。また、ビットコイン価格が利下げを境に大きく上昇していることも事実です。

このことから、今回の利下げによって、仮想通貨市場にも資金が流入していることはほぼ間違いないと考えられます。

景気後退局面において、アメリカは急ピッチで利下げを進めることが多いです。

今後も、過去と同様に短期間で利下げが続く可能性があります。

これによって株式市場から資金を引き上げる動きが高まり、金やビットコインが買われることは十分に考えられます。

影響は未知数

ただし、利下げに端を発する動きによって仮想通貨市場が盛り上がり、価格が上昇するとしても、影響度や動きが読めないのが難しいところです。

仮想通貨の歴史が始まってから、金融危機といえる大きな出来事は起こっておらず、参考にすべきデータがありません。

これが金であれば、値動きは比較的安定しています。

金先物価格は2000年には300ドルを下回っていましたが、ITバブル崩壊までに300ドルを突破し、経済が安定してからも順調に値上がりを続けています。

リーマンショックの頃には900ドル前後まで上昇し、2011年8月には1800ドルを突破、その後下落に転じ、約4年半後の2015年末には1100ドルまで下落しているものの、下落率でいえば約39%にすぎません。年換算では8.7%程度の下落率です。

これに対し、ご存知の通り仮想通貨はボラティリティが非常に高いです。

これは、仮想通貨の価値が定まっていないこと、信用取引の比率が異常に高く投機性が高いことなどが原因です。

2017年末、一時220万円を超えたビットコイン価格は2018年末に40万円を割り込んでいます。

1年間で約82%もの下落ですから、金価格の下落とは比べ物になりません。

このことから、アメリカの政策金利の引き下げが、今後もビットコイン価格の上昇要因になる可能性がある一方で、

 

  • 政策金利の動向から、最終的にどれくらいの影響を受けるか
  • 利下げが続く中、仮想通貨業界で悪材料が出てきたときにどのような影響を受けるか
  • 利下げの結果、景気後退が一服した時にどのような値動きを見せるか

 

といったことは全くの未知数であり、何らかのきっかけで金利動向とは無関係に乱高下したり、大幅な下落に陥る可能性も否定できません。

したがって、

 

  • 現在、利下げと同時にビットコイン価格が上昇していること
  • 今後も利下げが実施される可能性があり、その際に同様の効果が期待できること
  • リスクオフの流れでビットコインが買われる動きが徐々に強くなっていること
  • ビットコインの上昇余地が大きいこと
  • 強気な予想を打ち出す専門家が少なくないこと

 

などの理由からビットコインに投資するとしても、仮想通貨市場の歴史は浅く値動きが予測しにくいこと、他の金融商品に比べて価格変動が激しいことなどにより、ハイリスクであることを忘れてはなりません。

決して楽観視することなく、あくまでも慎重に投資を進めていきましょう。

まとめ

アメリカの政策金利引き下げと時を同じくして、ビットコイン価格は上昇しています。

これまで、アメリカの政策金利や長短金利差が株式や金の価格に影響を与えてきたことから、仮想通貨市場も金利動向の影響を受けている可能性は高いです。

しかし、歴史の浅い仮想通貨市場において、金利の影響がどの程度のものであるか、最終的にどのような結果に至るか、予想することは困難です。

金利の動向を仮想通貨投資に役立てる視点は重要ですが、分析や予測を過信することなく、慎重に判断していくことが重要です。

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