ブラジル、ロシア、インド、中国はBRICsとも称され、著しい経済発展の最中にある国として知られています。
このうち、ブラジルとインドは仮想通貨市場が大きく、中国は仮想通貨規制でたびたび話題となり、ロシアも時折インパクトのある仮想通貨関連ニュースで話題となっています。
また、この4か国の全てがG20に所属しており、今後G20が仮想通貨の世界的規制を牽引していくことが予測されることからも、無視できない国々と言えるでしょう。
そんな中、インド準備銀行が仮想通貨に対する立場を明らかにする報道がありました。
最近のインドの動きも含めてまとめていきます。
インドの仮想通貨規制について
経済成長が目覚ましいインドでは、仮想通貨市場が大きい国とされており、また今後世界的な仮想通貨規制を牽引していくであろうG20の構成国でもあります。
そのため、仮想通貨の今後を占うにあたり、インド国内の規制の動きは無視できません。
これまで、インド準備銀行(インドの中央銀行。以下RBI)は国内の全ての金融機関に対して、仮想通貨の取り扱いを禁止するなど、仮想通貨に対して否定的な立場にありました。
その後、規制がどうなっていくかに注目が集まっていたところです。
本腰を入れて取り組む様子
もっとも、インドは中国のように仮想通貨を真っ向から否定していくのではなく、慎重に判断していくという感じです。
インド財務省の動きを見ても、昨年12月には仮想通貨についての検討委員会が設置されており、規制の枠組みを作っていくために、国内外に調査を行い、知見を広げ、適切な規制をしていく姿勢を見せていました。
この検討委員会には、インドの財務省、経済局、RBI、インドステート銀行の代表が参加していることから、その入れ込みようが分かります。
財務省は国家の財政と税務を担い、経済局は財務省の中にあって国家予算を作成し、RBIは自国通貨の発行や金利政策を担う重要な機関であり、インドステート銀行はインド最大の国有銀行です。
このように、インド経済の中枢にある人物が一堂に会して、委員会が結成されているところに注目すべきでしょう。
具体的な規制は10月以降か
委員会のスケジュールでは、規制の草案は2018年7月に提出され、9月には規制の枠組みが公表される予定だったのですが、2018年現在でまだ成果は見られません。
まだ時間がかかるようですが、これはG20 でも仮想通貨規制案の延長が続いていることも影響しているかもしれません。
G20に参加しているインドとしては、G20の規制案が固まってから国内の規制を具体化していく方が、具合が良いものと思われます。
したがって、G20が規制案を具体化するとされているのが今年10月ですから、インドの規制もそれ以降に具体化していくのかもしれません。
G20 の規制案は再び延期される可能性もありますが、検討委員会が規制草案を提出する期限は今年12月とされているため、近いうちに動きがみられる可能性があります。
インドは仮想通貨に友好的なのか?
そんな中、インドの仮想通貨規制で、ポジティブに受け取れる動きも見られました。
最近話題になったものでは、インド証券取引委員会(以下SEBI)が日本の金融庁に視察団を派遣したことです。
日本の金融庁は仮想通貨に友好的
日本の金融庁が、国内の仮想通貨業界に対して厳しい規制をしているのは、皆さんもご存知の通りだと思います。
仮想通貨交換業者の新規登録はかなり厳しく審査されますし、問題があれば処分を躊躇しません。
しかし、これは業界の発展を妨げようとする意図があるのではなく、仮想通貨やブロックチェーンの技術は認めており、発展を期待しています。
これは、金融庁長官の発言からも明らかです。
仮想通貨とブロックチェーンの健全な発展を期すためにも、仮想通貨業界に対して適切な規制を施していくというスタンスなのです。
このことから、一面において日本の金融庁は仮想通貨業界に厳しいというイメージもありますが、必ずしもそうではないと言えるでしょう。
実際、イギリスのリサーチ機関であるグレースパーク・パートナーズの報告書でも、世界各国の規制当局を格付けた結果、日本の金融庁は仮想通貨を容認しており、ICOにも慎重だが好意的であると評価しています。
総合評価では、日本の金融庁は仮想通貨の支持者であると認定されています。
同報告書では、日本のルールは厳しいものの仮想通貨を支持していることから、「ルールに従うことができる仮想通貨取引所にとっては良い環境である」との評価もなされています。
coincheck事件以降続く調査と処分の流れに対しても、「投資家と業界の成長を守るための規制強化、処分である」と前向きな評価をしています。
SEBIが視察団を派遣
9月4日、SEBIは他国の仮想通貨規制の現状を調査するために、日本の金融庁、イギリス金融行動監督機構、スイス連邦金融市場監督機構に視察団を派遣したことが報じられました。
上記の通り、日本の金融庁は仮想通貨に友好的であり、イギリスも仮想通貨には友好的です。
スイスは日本以上に仮想通貨に友好的であり、上述のリサーチ機関の報告書でも、スイスやマルタを日本より友好的な国として位置付けています。
仮想通貨に友好的であるがゆえに、世界に先駆けて規制に取り組んでいる3か国が選ばれたと言えるでしょう。
SEBIは、RBIの姿勢とは逆に、仮想通貨に前向きな姿勢を見せています。
そのため、RBIの否定的な姿勢に対抗するためにも、仮想通貨先進国の規制の現状を調査したものと思います。
中央銀行の方針は、その国の仮想通貨との関係に非常に大きな影響を与えるものですが、証券取引委員会の方針もまた大きく影響するものです。
SEBIは、RBIの仮想通貨取引禁止令に反対する嘆願書も提出しており、インドの最高裁判所は9月11日から開かれる公聴会の結果を踏まえて、この法令に最終判断を下すとしています。
近代憲法では、国家権力を立法、司法、行政の三権に分けて考えるのが基本です。
最高裁判所すなわち司法が仮想通貨取引禁止令をどう判断するかによって、インドの仮想通貨規制の方針は大きく影響を受けるに違いありません。
仮想通貨取引禁止令については、RBIは充分な説明責任を果たしておらず、十分な調査や裏付けがないまま、見切り発車的に発令したことを認めています。
この法令が覆るとする見方もあり、全面禁止ではなく適切な規制をしていくべきだとする声も強かったことから、SEBIはその後押しのためにも視察団を派遣したものと思います。
したがって、SEBIが仮想通貨に友好的な国に視察団を派遣したことは、ポジティブな要素であるとも言えますが、インド自体が仮想通貨に友好的であるわけではありません。
否定的な流れを払拭できるか?
その後、予定通りに9月11日に最高裁判所の公聴会が2日間にわたって開かれました。
公聴会にあたり、RBIは最高裁判所に提出する宣誓書の中で、ビットコインその他の仮想通貨に対する否定的な立場を明らかにしています。
この宣誓書で注目すべき点は以下の通りです。
[surfing_su_box_ex title=”仮想通貨は通貨の定義を満たさない” style=”noise”]
仮想通貨は物理的な形状を有しておらず、また印刷や刻印によるインドルピーのような表記もないため、インドの法律における通貨の定義を満たしていない。[/surfing_su_box_ex]
[surfing_su_box_ex title=”仮想通貨は違法である” style=”noise”]
RBIは外国為替管理法を根拠として、通貨の合法性を認識している。
この法令で合法とみなすのは、小切手や為替と同様の特徴を持つ通貨に限られており、仮想通貨はその限りではない。[/surfing_su_box_ex]
[surfing_su_box_ex title=”仮想通貨は法的に解釈する術がない” style=”noise”]
インドの法律では、仮想通貨を法的に位置づけることができない。
決済システム法にも該当しない。[/surfing_su_box_ex]
[surfing_su_box_ex title=”仮想通貨は立場が不明である” style=”noise”]
仮想通貨は、主権国家が発行した通貨でもなければ、外国通貨とも言えない。[/surfing_su_box_ex]
[surfing_su_box_ex title=”宣誓書の主張はインド憲法に準拠する” style=”noise”]
宣誓書を提出するRBI、そして宣誓書で取り上げた外国為替管理法、決済システム法は、最高法規であるインド憲法で認められている。[/surfing_su_box_ex]
この主張をまとめると、
“#eee” radius=”20″]仮想通貨はインドの法律で法的な位置づけができず、なおかつ通貨の定義から考えても、法令から考えても合法とは言えない。
しかし、その主張の根拠となる法律や法令、主張するRBIはインド憲法に認められている。
というわけです。
なかなか強力な主張だと思います。
次回の公聴会は9月17日に予定されており、現時点では結論は出ていません。
インドの仮想通貨規制はどうなるか?
インドの地元メディアであるQuartzの報道によれば、インドの仮想通貨に関する検討委員会では、ブロックチェーンと仮想通貨を別々に取り扱っていくとされています。
多くの国がそうであるように、ブロックチェーンを技術的に認めており、積極的に取り入れていきたいと考える一方で、仮想通貨には否定的な見解をしているということです。
ブロックチェーンは仮想通貨の根底となる技術であることから、ブロックチェーンを認める場合には仮想通貨も認めるのが一般的ですが、インドの場合は少し異なる見方をしていることが分かります。
このことから、検討委員会の立場としては、あくまでも仮想通貨には否定的であると予想できます。
RBIも検討委員会の一角を担っていますが、RBIの考え方はこれまでも述べてきた通り否定的なものです。
検討委員会が全体的に否定的な雰囲気を持っていても不思議ではありません。
SEBIは、日本を含めた仮想通貨先進国に視察団を派遣し、前向きな規制の可能性を探っています。
しかし現段階では、SEBIの取り組みだけでは規制を作っていくのは難しいでしょう。
RBIの宣誓書にもある通り、仮想通貨はインドの法律によって定義づけることができません。
仮想通貨は通貨としての特徴だけではなく、金融商品としても、資産としても見なせる色々な性質を持っていることから、定義づけることが難しいのです。
定義のないものに規制を施していくことは困難ですから、何らかの法的な位置づけに固定する必要があります。
インドの政府関係者の発言では、RBIは仮想通貨をコモディティに位置付けることを考えているとの情報もあります。
2016年、インドでは高額紙幣の廃止に踏み切りました。
これが、国内では大きな混乱を引き起こしましたが、それでも踏み切ったのは不正資金を撲滅するためです。
インド国内では、国内総生産の20%以上をブラックマネーが占めているとも言われ、大きな問題にもなっていることから、このような対策を断行したのです。
このことから、インドではブラックマネーを大きな問題と考えており、出所の分からない資金については厳しい対応を取っていることが分かります。
RBIが仮想通貨を否定するのも、これが大きな理由になっていることでしょう。
仮想通貨が不正資金として使われていることは、世界中で問題視されています。
RBIが仮想通貨の広がりを警戒するのは当然です。
もし、仮想通貨をコモディティに位置付けるならば、コモディティとしての仮想通貨取引をうまく規制していける可能性もあります。
RBIの方針には、このような事情が絡んでいるのでしょう。
一方、SEBIの動きも重要です。
インドの現行法では、RBIとSEBIが仮想通貨規制を担うことになっているからです。
その規制の参考として、日本などに視察団を派遣しています。
ご存知の通り、日本では仮想通貨は貨幣の機能を持っていると金融庁が認めており、法的にもそう定められています。
仮想通貨を貨幣として認めている日本に視察団を派遣していることから、SEBIは仮想通貨をコモディティとしてではなく、通貨として認められるようにしていきたいのかもしれません。
実際に、SEBIは独自にビットコイン法を作りたいという意向があるとも言います。
規制を担う両翼が全く異なる方針を持っていることから、インドの仮想通貨規制がどうなっていくか、全く予測がつかない状況となっています。
まとめ
インドの今後の規制を占うためには、RBIとSEBIの主張がどうなっていくか、またそれを最高裁判所がどのような判断するかによって決まってくるでしょう。
公聴会が今後も続いていくこと、検討委員会の規制草案の提出期限が12月であることなどから、今後短期間のうちに、インドの規制状況が大きく変わったり、方針が明確になってくる可能性があります。
仮想通貨業界全体への影響は小さくないでしょうから、注目しておくべきでしょう。