先日、サウジアラビアにおいて、仮想通貨取引の禁止が発表されました。
現段階では、罰則規定などは明確化されていないものの、サウジアラビアは投資が盛んであることから、仮想通貨市場への悪影響が懸念されます。
また、サウジアラビアはG20の参加国であることからも、今後の影響に注目が集まります。
なお、最近のサウジアラビアの政治動向から、今回の規制の真の背景を指摘する声もありますので、それも合わせて紹介していきます。
サウジアラビアで仮想通貨取引が禁止へ
8月12日、サウジアラビアの規制当局が、仮想通貨取引を法的に禁止することが明らかとなりました。
昨年9月、中国が仮想通貨取引を禁止にしたことで、仮想通貨市場の暴落を招いたことが記憶に新しいですが、世界的に仮想通貨の前向きな法的規制・整備が検討されている中で、サウジアラビアの動きはこれに逆行するものであると言えます。
中国で仮想通貨取引が全面禁止となった当時、仮想通貨市場には中国から莫大な資金が流れていたことから、仮想通貨市場への影響も非常に大きいものがありました。
一方、サウジアラビアではそのような状況にはないため、仮想通貨市場に対して、短期的に大きな悪影響を与えることにはならないでしょう。
ただし、サウジアラビアといえば、原油などの天然資源が経済の中核をなしているほか、それによって獲得した外貨を原資とした投資も非常に盛んな国柄です。
サウジアラビア通貨庁は、世界における政府系投資ファンドの中でも特に有名なものの一つであり、運用額は4940億ドルに上ります。
世界最大の政府系投資ファンドであるノルウェー政府年金基金(運用額:1兆330億ドル)の半分に迫る規模であり、政府系ファンド全体の資産規模である7.4兆ドルの約6.6%を占める規模です。
ちなみに、世界の運用資産の総額は約69兆ドルですから、政府系投資ファンドの運用総額はその約10分の1にあたり、サウジアラビア通貨庁の運用額は世界の運用資産の約0.7%に相当するとも言えます。
政府系投資ファンドは、その運用資産の大きさを背景に大規模な投資に乗り出すため、市場への影響が非常に大きいとされています。
また、政府系投資ファンドは、国家主導で投資を進めていくものですから、当然ながら投資方針には政治的意図が含まれることとなり、国家における仮想通貨への姿勢も如実に現れると言えるでしょう。
今後、仮想通貨がスタンダードなものとして認められていけば、個人投資家から機関投資家へと投資が広がっていき、やがて政府系投資ファンドが仮想通貨を運用の対象にする可能性もあります。
そうなれば、仮想通貨市場に与える影響は大きいと考えられます。
そんな中、国が仮想通貨を禁止しているのですから、その姿勢を貫くならば、サウジアラビア通貨庁の莫大な資金が仮想通貨市場に流入しない可能性があります。
このことが、仮想通貨市場にどのような影響を与えていくのか定かではありませんが、少なくとも良い影響は期待しにくいです。
さらに、サウジアラビアはG20に含まれており、G20の動きは仮想通貨市場に大きな影響を与える可能性があるため、この意味でもサウジアラビアの動きは無視できないものと言えます。
なお、サウジアラビアはこの規制の中で、「すべての企業や個人は取引を認めない」としています。
これにより、企業や個人の資産が仮想通貨市場に流入しなくなることで、仮想通貨市場に対していくらかの悪影響が予想されます。
しかし、仮想通貨取引を違法と位置付けながらも、具体的な罰則については言及されていないことから、今回の動きにはそれほど強硬な姿勢は感じられません。
今後の動きに注目したいところです。
仮想通貨取引禁止の背景
サウジアラビアにおけるこのような動きを見ると、サウジアラビアでは仮想通貨のリスクを懸念しており、徐々に拓かれつつある仮想通貨の健全性に水を差す動きに見えます。
実際、サウジアラビアの声明では、仮想通貨はボラティリティが高いため、投資家に与える影響が大きいこと、仮想通貨を利用した詐欺が多発しているため、その被害から投資家を守ることなどが理由とされています。
しかし、サウジアラビアの政治を俯瞰してみると、今回の規制の真の理由は、もっと別のところにあるとする見方もあります。
現在、サウジアラビアでは、ムハンマド皇太子の独裁リスクが高まっているとされています。
ムハンマド皇太子は、2017年に王位継承順位第1位の地位に着くや否や、様々な改革を進めているのですが、その改革が独裁につながる可能性が指摘されているのです。
特に、汚職対策のための摘発では、摘発された王族や実業家が財産を国庫に返却するに至っていますが、容疑が不明確であることから、何らかの圧力が働いたとする見方も強いです。
さらに、国庫を管理しているのがムハンマド皇太子であることからも、独裁の懸念が強まっています。
王族や実業家が、理不尽な流れで国家に財産を没収されたとみることもできるわけですが、このような動きが強まれば、サウジアラビア国内の実業家や資産家、あるいは個人までも、自分の財産を守る必要性を感じざるを得ないでしょう。
そうなれば、仮想通貨に注目が集まっても不思議ではありません。
ビットコインがデジタルゴールドと言われていることが象徴的ですが、仮想通貨は資産の避難先として注目されつつあります。
最近では、米中の貿易摩擦やトルコリラの暴落などにより、世界経済への悪影響が懸念されていますが、これも仮想通貨が安全資産としての役割に拍車をかけています。
サウジアラビア国内でも、自分の資産を守るために仮想通貨に資金が流れることは、ごく自然な流れです。
このように考えると、仮想通貨取引を違法とした今回の動きは、今後独裁体制への懸念が強まった場合に、国内の資産が仮想通貨へと流れることを防ぐためなのかもしれません。
そうであるとすれば、現時点では仮想通貨取引禁止に伴う罰則は明らかではありませんが、今後厳しい罰則が設けられる可能性も考えられます。
もちろん、仮想通貨のボラティリティの大きさや仮想通貨詐欺が起こっていること、あるいはマネーロンダリングへの利用なども、仮想通貨の問題として疑いのないものですから、これがサウジアラビアの仮想通貨規制の真の理由であるのかもしれません。
しかし、サウジアラビアの政治の状況と、今回の規制を合わせて考えた時、声明の内容とは異なる見方もできるため、知っておいて損はないと思います。
まとめ
サウジアラビアで仮想通貨取引が禁止されたことにより、サウジアラビア国内の企業や個人は仮想通貨取引ができなくなります。
これにより、サウジアラビア国内の資産が仮想通貨市場に流れなくなること、また、サウジアラビアはG20 の一角を担うことから、今回の動きは無視できないものと言えましょう。
今回の声明では、罰則なども明確ではなく、どれほどの影響があるのか定かではありません。
しかし、単なる投資家保護ではなく、国内資産の流出を防ぐことが主たる目的であった場合には、何らかの厳しい罰則が設けられる可能性もあります。
サウジアラビアの動きには、今後も注目が必要です。