ビットコイン価格は景気後退で上昇しない?最近の動向から考察

ビットコイン(BTC)

8月に入ってから、景気後退懸念の高まりと同時に上昇に転じたビットコインですが、ここ数日で大きく値下がりを見せています。

ビットコインは、景気後退局面で値上がりすると言われることも多かったのですが、今回はその例に当てはまっておらず、ビットコインは安全資産ではないとする意見も増えてきました。

果たして、ビットコインと景気動向は、どのような関係にあるのでしょうか。

最近の動向とともに考察していきます。

最近の動向

アメリカの政策金利引き下げや長短金利逆転、米中貿易摩擦の影響、ここ数日ではアルゼンチンに端を発するペソ安などの影響もあり、世界的な景気後退の懸念が一層高まっています。

NYダウ平均は、13日終値の26279.91ドルから800ドルも下げ、14日の終値で25479.42ドルをつけています。

日経平均株価もこれにつられて、15日終値20450.65円をつけ、200円以上の下げ幅となりました。

世界の株価指数は全面安となっており、世界の株式時価総額は3兆ドル以上も減少しています。

景気後退への懸念により、リスク資産から資金を逃避させる動きが高まっています。

代表的なのが金の値動きです。

株式・債券・通貨・商品の動向を見てみると、7月末から8月17日の価格を比較した場合、金が最も上昇しています。

この期間、NY金先物価格は約100ドルの上昇となっています。

金以外で上昇した資産には、日本円、米国債、ドイツ国債などがあり、リスク資産から安全資産へと資金が流れている様子が分かります。

このような流れの中で、ビットコイン価格も上昇していました。

8月に入ってから、下落基調にあったビットコインは反騰を見せ、8月1日には約110万円であったものが、8日には130万円に迫る勢いを見せています。

このことから、仮想通貨市場界隈では、世界経済の後退とビットコイン価格には相関がみられ、景気後退とともにさらなる上昇を見せることが期待されていました。

しかし、9日からビットコイン価格は下落に転じています。

数日のうちに110万円を割り、17日現在は110万円前後で推移しています。

ビットコインは安全資産ではない?

この流れを受けて、「ビットコインは安全資産ではない」とする有識者も表れています。

米仮想通貨投資ファンドIkigaiの責任者であるTravis Kling氏は、

 

「ここ数日、ビットコインは安全資産として機能していない。

仮想通貨市場の構造によるものかもしれないし、特定の市場ストレスにしか反応しないのかもしれない」

 

と語っています。

これまで、世界経済に後退懸念が生じたとき、ビットコインが買われる動きがみられました。

このため、ビットコインと景気後退懸念には相関があるとされてきたのですが、今回はその例に当てはまっていません。

仮想通貨市場の歴史は浅い

Travis Kling氏の発言は、仮想通貨市場の構造が世界経済とどのような関係にあるのか、よくわからないという意味が読み取れます。

これは、仮想通貨市場の歴史は非常に浅いためです。

最も歴史の古いビットコインでさえ、2009年に運用が開始されたものであり、仮想通貨の取引が広がるまでに長い時間を要しています。

仮想通貨市場の取引が活発化したのは2017年ごろですから、それ以前の市場は一部の投資家や愛好家によって形成されていました。

一部の人々によって形成される市場は、株式“市場”や為替“市場”などと同じ意味での市場とみなすことはできません。

むしろ、仮想通貨市場は、実質的な意味で市場としての歴史が始まっていないとも言えます。

通常、金融市場には機関投資家や政府が参加しているものです。

多くのプレイヤーが取引することで市場が形成されていくため、世界経済の動向によって様々な影響を受けます。

一方、仮想通貨市場は取引が増えているとはいえ、プレイヤーの大部分は個人です。

ほとんどの機関投資家は手を出していませんし、政府も参加していません。

したがって、仮想通貨”市場”といいつつも、一般的な市場と同じものとは考えにくいのです。

市場としての歴史が短ければ、前例となる過去がありません。

過去の経済動向との関係を見ることはできず、影響の程度も不明です。

仮想通貨の市場規模は小さい

仮想通貨の市場規模も考える必要があります。

政府や機関投資家が参加していないことから、仮想通貨の市場規模は小さく、2018年6月時点で3000億ドル程度です。

これに対し、株式の市場規模は74兆ドル、金の市場規模は7.8兆ドルとなっており、仮想通貨市場よりも圧倒的に大きいことが分かります。

政府や機関投資家が多く参加し、市場規模が大きくなれば、世界経済の影響も大きく受けることとなります。

政府や機関投資家は、世界経済の動向を受けて、様々な方針を打ち出します。

政府が巨大な投資機関を運用している場合には、特に顕著です。

分かりやすいのが、中東諸国の政府系ファンドです。

中東全体で見れば、政府系ファンドの運用総額は2兆ドルとも言われており、市場への影響は絶大です。

中東諸国は、外貨収入の大部分を原油の輸出に頼っており、獲得した外貨を世界中で運用しています。

このため、中東の政府系ファンドの方針は、原油価格に大きく影響を受けることになります。

原油価格が下がれば、中東の外貨収入は減ります。

これによってキャッシュが必要となれば、市場からオイルマネーを引き上げます。

これが、原油価格の動向が、様々な市場で多くの影響をもたらす理由の一つでもあります。

このように、莫大な資金量を持つプレイヤーが参加し、規模が大きい市場では、世界経済の動向にわかりやすく反応します。

株式投資を考えると、短期的に、あるいは個別株で見れば、景気動向を無視した値動きを見せることもありますが、長期的に、株式市場全体が景気動向を無視して動くことはありません。

プレイヤーの大部分が個人であり、規模も小さい仮想通貨市場では、このような反応が起こりにくい環境にあります。

大きな景気後退局面において、巨大な投資機関が資金を動かし、金融市場が大きく揺れ動いているとき、景気動向を全く無視した動きが続くことはないとしても、反応がわかりにくく予測も立てづらいことは間違いないでしょう。

今後、仮想通貨市場の規模が大きくなり、機関投資家なども積極的に参加してくるようになるまでは、このような分かりにくさ、難しさを感じることが度々あると思います。

安易に予想を立てず

Travis Kling氏の言う通り、仮想通貨市場の構造が景気後退懸念にどのような影響を受けるか、まだまだ予測が立ちにくい状況です。

景気後退懸念が強くなったとき、最も買われるのは安全資産の金です。

ビットコインをデジタルゴールドと称し、金のようなものだとする意見もありますが、金とビットコインでは歴史も市場規模も違います。

長い歴史の中で、安全資産としての価値を認められ続けてきた金に対し、ビットコインの歴史は短く、安全資産としての価値は認められておらず、むしろ乱高下するリスク資産としての性質が強いです。

多額の資金を運用する投資機関や富裕層のほとんどは、金への投資を選ぶでしょう。

景気後退局面で、マネーの逃避先として選ぶのですから、その逃避先がハイリスクであれば本末転倒です。

もちろん、一定の条件下では、富裕層がビットコインを買う動きもあります。

国家による締め付けが厳しい中国や、インフレが続くベネズエラなど、法定通貨への信用が著しく下がった国では、法定通貨よりもビットコインのほうが信頼は高いため、リスク回避のためにビットコインを買うのです。

しかし、世界的なスタンダードで考えるならば、ビットコインよりも法定通貨や金のほうが安全です。

最近の金価格の上昇や円高の進行は、その表れです。

このような流れがビットコインで起こるためには、ビットコインの標準的な価値が定まること、ビットコインの歴史が長く続き、安全資産として認められることが必要です。

仮想通貨市場の短い歴史の中で、これまで軽微な懸念との相関が見られたことは一旦忘れて、大きな懸念にどのような影響を示していくのか、今後注視していく必要があるでしょう。

まとめ

これまで仮想通貨業界では、「ビットコインは景気後退局面で上昇する」と言われることも多かったのですが、最近ではそのような見方が難しくなってきています。

もちろん、景気後退局面でどのように動くか分からないのですから、「景気後退局面で下落する」とも言い切れません。

ビットコインも、投資対象の一つとして認識されている以上、景気とは何らかの関係があると考えるべきです。

今後、市場規模が大きくなれば、景気との関係も分かりやすくなってくるでしょう。

ただし、現在ではそれが分からない状況であり、極めて投機性が高いと言えます。

あくまでも余裕資金の範囲内で、現物に限って長期保有するなど、冷静な計画と判断が求められます。

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