14日、大手仮想通貨取引所のBinanceが、規制に準拠しつつ米国市場に進出するために、Binance USの設立を発表しました。
同時に、Binanceでの米国ユーザー向けサービスを停止する計画も発表されており、この2つのニュースによって仮想通貨市場に大きな影響が表れています。
本稿では、Binanceによるこれらの発表の詳細と、市場への影響について解説していきます。
Binanceが米国進出
先日、仮想通貨取引所の世界最大手として知られるBinanceが、米国進出の計画を明らかにしました。
Binanceは、取引銘柄の多さ・顧客の多さ・取引高の多さなどもさることながら、CEOであるCZ氏が先進的な取り組みに積極的であることから、常に注目を浴びています。
まさに、仮想通貨業界をけん引する存在と言えます。
しかし、そんなBinanceでも、長らく米国市場への進出には慎重な姿勢で臨んできました。
アメリカには、有価証券問題をはじめとする様々な問題も起こっており、仮想通貨への規制の方向性も不明確です。
規制の方向性が不明確であれば、米国市場に進出した後に規制による大打撃を受けることにもなりかねません。
だからこそ、Binanceはアメリカのユーザーにサービスを提供しているものの、なかなか本格的な進出には至りませんでした。
この流れが変わってきたのは今年に入ってからです。
今年4月、BinanceのCFOであるWei Zhou氏によって、アメリカへの進出計画が語られました。
今回の発表は、この計画がかなり具体的になったものです。
Binanceの発表によれば、既にサンフランシスコの送金業者BAMと提携し、Binance USを設立する(BAMがアメリカ国内での取引所業務を管理し、Binanceは技術を提供する)というものですから、実現に近いレベルでの動きに発展していると思われます。
現時点では、Binance USの設立の日程は明らかになっていません。
しかし、BinanceのCEOであるCZ氏は、
Binance USは、Binanceのパートナー企業であるBAMが運営する。アメリカの規制・コンプライアンスに準拠し、取引サービスを提供する。
と話しており、また提携先のBAMはアメリカの金融犯罪取締ネットワークに登録されている会社であることから、Binanceがアメリカに進出するための準備はすでに整いつつあるのかもしれません。
米国進出の意義
もし、Binanceがアメリカに進出すれば、仮想通貨業界にとっては様々な良い影響が期待できます。
まず、これまでもBinanceは先進的な取り組みを意欲的に行ってきましたが、米国市場でも同様の活動を展開すれば、規制の方向が不明確だった米国仮想通貨業界には良い刺激となる可能性があります。
多くの仮想通貨の先行きに不透明感をもたらしている有価証券問題も混沌としており、有価証券であるとする法律家もいれば、有価証券ではないとする法律家もいます。
筆者もそうですが、仮想通貨に投資している人の多くが、いったい有価証券問題がどうなっていくのか、わからないというのが正直な気持ちでしょう。
法律家でさえ、どちらの見解が正しいか断定しかねる状況が長く続いているのですから、法律の専門家でもない我々では理解は及ばなくて当然です。
となれば、専門的なことはさておき、なんとか早く結論を出してほしいと思うばかりですが、Binanceが米国に進出すれば、規制がより明確になったり、有価証券問題が進展したりする可能性が考えられます。
Binanceは多くの顧客を抱え、取引高も大きいため、BinanceやBinance USの方針・主張・動向などによって、米国の経済は少なからず影響を受けるはずです。
もちろん、仮想通貨市場にも多くの影響が表れると思います。
例えば、現在のアメリカでは、有価証券としての一面も持ち合わせている仮想通貨を扱いにくい雰囲気が広がりつつあります。
もし、アメリカの規制に準拠するBinance USが、有価証券問題が懸念されている仮想通貨を取り扱うならば、それが安心材料になって価格の上昇材料にもなると思います。
サービス開始はいつ?
上記の通り、Binance USのサービス開始時期は明らかにされていませんが、今年9月12日ごろにサービスが開始される可能性があります。
これは、先日14日、Binanceが米国ユーザー向けのサービスを9月12日に停止することを発表していることによります。
先日発表された、Binanceの分散型取引所であるBinance DEXでもアメリカを利用制限国に追加されていますし、SECの高官が海外取引所への取り締まりについて言及したことなどもあり、Binanceは規制への準拠を迫られています。
その対応の一環として、Binanceでは米国ユーザー向けサービスの停止を決定したものと思います。
このような流れから考えると、Binanceでは米国ユーザー向けサービスを停止するものの、Binance USによって米国ユーザー向けサービスを展開するというように、サービス停止・サービス開始が連動していると考えられます。
Binanceにとって、米国市場の存在は非常に重要です。
なんといっても、アメリカは仮想通貨投資が最も盛んな国であり、Binanceの取引高の2~3割を米国ユーザーが占めているともいわれています。
もし、9月12日にサービスが停止され、この時までにBinance USがサービスを開始していなければ、Binanceを利用していたユーザーは別の取引所を利用せざるを得ません。
Binance USがサービスを開始してからも、全てのユーザーが帰ってくるとは限りませんから、Binanceはユーザーの流出・取引高の減少を招くことになります。
このため、Binanceが米国ユーザー向けサービスを停止し、その後長期にわたって米国市場にノータッチになるとは考えにくいです。
Binanceが米国ユーザー向けサービスを停止する9月12日に合わせて、Binance USでサービスが開始されるのであれば、Binanceは損失を最小限にとどめることができるため、このタイミングがBinance USのサービス開始時期になる可能性があります。
ただし、CZ氏は自身のツイッター上で、
長期的な利益には、短期的な痛みが必要かもしれない。我々は、短期的な苦痛を長期的な利益に変えるように努力していく。
と発言しており、ある程度の損失を覚悟している、つまり米国向けサービスの停止時期と開始時期のズレによるユーザーの流出や取引高の減少を覚悟しているのかもしれません。
したがって、Binance USのサービス開始時期は9月12日あたりになる可能性がありますが、あくまでも目安と考えておきましょう。
市場への影響
Binanceが米国ユーザー向けサービスを停止することを発表したことで、市場には大きな影響が表れています。
これを「バイナンス・ショック」と呼んでいるメディアもあるほどで、Binanceが扱っているアルトコインで暴落が起きました。
Binanceは時価総額の少ないアルトコインも多数扱っており、取り扱い銘柄は493銘柄にも上ります。
Binanceの米国ユーザーの取引高が大きいため、米国ユーザーへのサービスが停止されたとき、これらのアルトコインの取引も大幅に減少する可能性があります。
また、Binance USは米国の規制に準拠していることから、マイナーなアルトコインが取り扱われない可能性もあります。
このような懸念により、時価総額が低いアルトコインの多くが売られて暴落につながり、10~25%以上もの暴落を見せた通貨も珍しくありません。
今年に入ってから好調な値動きを続けてきたBNBも、一時10%以上の下落を見せました。
買い戻しの動きも強まり、現在は下げ止まっていますが、まだまだ油断できない状況です。
マイナーなアルトコインが大きく売られたことにより、その資金がビットコインや主要アルトコインに流れていることも確認されています。
Binance USで主要アルトコインを取り扱うと予想する専門家もおり、これもビットコインと主要アルトコインには追い風になるかもしれません。
まとめ
Binanceが米国ユーザー向けサービスの停止を発表したことで、アルトコイン市場には逆風となっています。
しかし、Binance USが設立されれば、アメリカでの仮想通貨規制が良い方向に向かうことも考えられ、有価証券問題の進展にも期待が持たれます。
規制が明確化されていないアメリカで、Binanceの進出がどう影響してくるか、今後も注目していく必要がありそうです。