8月10日、金融庁は仮想通貨交換業者の検査結果を発表し、登録審査を厳格化する方針を打ち出していました。
そして先日、審査の厳格化の具体案が発表されています。
それによると、明らかに審査が厳しくなっていることが分かり、さらに従来の審査の問題点も解消する意図が見られます。
これにより、登録を断念する業者も出てくるのではないかとの声も上がっています。
本稿では、金融庁の登録審査厳格化とその影響について解説していきます。
金融庁の方針が具体化
今年1月のcoincheck事件以降、金融庁は仮想通交換業者に対して厳しい姿勢を見せており、先日も仮想通貨交換業登録を厳格化するとの方針を発表していました。
この発表は8月10日に出されていますが、その中では仮想通貨交換業者に見られる問題点を明確に指摘し、その上で登録を厳格化していくことが打ち出されていました。
この時点では、まだ方針を打ち出したに過ぎないのですが、9月1日の時事通信の報道において、審査の厳格化に関する具体案が報じられています。
報道によると、仮想通貨交換業者の登録は以下のように厳格化されるとのことです。
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- 審査項目は約400項目へ増加(従来の約100項目から4倍に増える)
- 仮想通貨交換業者のシステムの安全性、財務の健全性、経営陣の体制を把握すべく、取締役会議事録の提出を義務化
- 株主構成を定期的に調査
- 反社会勢力との関係をチェックする社内体制の調査
約400にのぼる審査項目は、金融庁が業者に質問票を送付し、それに対する回答を審査する形で行われるようです。
従来の質問票では、業者の収益状況やシステムの安全性に関する質問に過ぎなかったのに対し、審査項目を充実させることで、より広範囲にわたる審査が可能となっています。
さらに、取締役会議事録を確認することで、質問票の意思決定に経営陣がどのように関与しているかをチェックすることができます。
coincheck事件以降に行われた金融庁の立ち入り検査では、取締役会議事録の作成がされていないケースも見られ、内部管理体制のずさんさが目立ち、そのような体制が様々な問題を惹起したことから、その点も踏まえて取締役会議事録の提出を義務化したものと思われます。
審査厳格化の期待と懸念
coincheck事件によって仮想通貨交換業者の登録が中断していましたが、以上のような厳格な審査を行うことで、登録が再開されました。
これに伴って、期待も懸念の両方が考えられます。
期待
まず期待ですが、これは業界の健全化につながるという期待が大きいです。
これまでの検査によって仮想通貨交換業者が抱えていた多くの問題点を明らかにされ、それに厳しく対応する形で審査が再開されたことは、非常に良い流れだと言えます。
既に金融庁の許可を受けていた業者でさえ、多くの問題が指摘されていたことから、仮想通貨交換業者の多くは、未だ本当に健全とは言い切れない状況です。
審査の再開を待っていた未登録業者は100社以上に上りますが、その中には問題をはらんだ業者も少なくないでしょう。
そのような業者が登録を断念するようになっていけば、良い流れと言えます。
また、登録にふさわしくない業者が、新規に登録を申請するケースも減ることが期待されます。
懸念
ただし、審査項目が約4倍に増えたことで、登録を目指す業者は審査対策に多くの労力をかける必要が生じます。
それにより、不健全な業者を排除すると同時に、健全な業者までも登録に労力と時間をかけることを強いられ、日本の仮想通貨業界の発展が遅れるのではないかとする声もあります。
金融庁は、来年度から対応強化のために、検査と監督に12人の増強を考えており、現在の検査・監督に当っている人員は30人から42人へと1.4倍に増強されます。
しかし、審査項目は100から400へと4倍に増えており、その他の点でも厳しい対応が求められることとなれば、人員の増強が間に合わずに審査業務が遅れるかもしれません。
もちろん、そのような影響は懸念されますが、登録に伴い労力と時間がかかることを嫌い、大企業が既に体制の整いつつあるみなし業者を買収する動きも強まっています。
マネックスがcoincheckを買収した件や、楽天がみんなのビットコインを買収した件が良い例です。
この結果、運営元が新興企業から大企業に移ることで、ノウハウや資金などを注ぐことで健全性が大きく高まり、好ましい業者が増えていくことも期待できます。
業界の健全化に期待
今回の厳格化に伴い、不健全な業者が登録を断念するような流れができ、本当に健全な業者だけが生き残っていくようになれば、国内の仮想通貨業界は健全な発展を見せることと思います。
日本の仮想通貨業界はまだまだ未熟ですが、それでも世界の中では発展が進んでいる方です。
改正資金決済法が施行されたことからも分かる通り、世界に先駆けて法整備が試みられてきました。
しかし、仮想通貨への期待は大きく、仮想通貨交換業者や投資家が多数参入したことで、国内の仮想通貨業界は法整備がとても追いつかないほどに急速な巨大化を見せ、それが様々な事件の原因ともなりました。
そもそも法整備とは、反対も賛成もある中で議論を重ねながら、じっくりと取り組んでいくものです。
日本が世界に先駆けて法整備を進めているとはいえ、法的な枠組みも、業界内での自主規制も、まだまだ未熟な状況です。
そのような中で整備を進めていくにあたり、今回のように金融庁が審査を厳格化してくれたことは、着実な一歩となることでしょう。
審査に時間がかかるようになり、仮想通貨業界の発展が遅れるとする見方もありますが、業界の発展と法的な整備に乖離が生じ、トラブルが引き起こされるよりは、業界の発展に多少ストップをかけるくらいでちょうどいいのではないかと思います。
このような整備が積み重ねられることによって、仮想通貨業界が健全になっていけば、今よりもずっと安全に取引できるようになるでしょう。
多くの人が安心して日常生活に取り入れることができるようになり、普及に拍車がかかっていくものと思います。
まとめ
国内の仮想通貨業界には自主規制団体もありますが、自主規制団体を構成する業者そのものが金融庁に問題を指摘されているような状況では、現時点での自主規制団体にはそれほど大きな期待はできないでしょう。
規制の流れを作っていくのは、金融庁だと思います。
金融庁の長官である遠藤氏は、仮想通貨業界の健全な成長を期待しており、業界の退歩を招くような規制はしたくないと発言しています。
今回発表された厳格化による影響は、次第に明らかになっていくことでしょうが、今後も金融庁の規制によって、業界の健全化が進むことを期待しています。