先日、BinanceのCEOであるCZ氏の公式ツイッターで、「1BTCを持っている人はやがて富裕層になる」とするツイートが発信されました。
ビットコインの普及は世界的に進んでおり、価値の上昇が見込まれているため、現在のビットコイン保有者が将来の富裕層になる可能性は十分に考えられます。
ビットコインに投資している人にとっては勇気づけられるツイートですが、このような考え方に対する疑問もしばしばみられます。
本稿では、ビットコインの普及と価値上昇への期待、その中でしばしば議論の対象となる矛盾点について解説していきます。
1BTCの保有で富裕層に?
8月25日、BinanceのCEOであるCZ氏の公式ツイッターで、ビットコインに関する強気の予想がツイートされました。
そのツイートは、
「もしあなたが1BTCを持っているならば、あなたは世界の最も裕福な3/1000の人になるだろう。」
というものです。
3/1000という数値の根拠は、世界の人口は約70億人であるのに対し、ビットコインの発行上限は2100万枚であるためです。
今後、ビットコインが普及して世界中の人に利用されるようになった場合、1000人あたり3人しか1BTCを保有できない計算になります。
現在、ビットコインの発行枚数は1789万7113枚であり、普及率はまだまだ低い状況です。
今後ビットコインが普及していき、世界中で高い価値が認識されるようになれば、ビットコインの価値は上昇し、たった1BTCの保有で富裕層の仲間入りができるという予想です。
CZ氏と同じ意見を持つ人は他にもいます。
例えば、コインベースのCEOであるブライアン・アームストロング氏も、CZ氏のツイートに先だって、以下のようなツイートをしています。
「良くも悪くも、ビットコインを所有する重要性は高まっている。発行上限は2100万枚のみであり、一部の人が既に1BTC以上を所有している。」
現在、1BTC以上を保有している人が多数います。
流通量が限られている中で、既に1BTC以上を保有する人がたくさんいるのですから、この傾向が強くなるにつれて、1BTCを保有するためのハードルは高まっていきます。
1BTCの保有によって、世界の3/1000に該当する富裕層になるためには、1BTCを早い段階で確保しておくことが重要と言えるでしょう。
ビットコインの普及は進む
上記のように、ビットコインの保有によって富裕層の仲間入りを果たすためには、ビットコインの価値が上昇することが前提となります。
これは、ビットコインが高い価値を持っていることが世界共通の認識となる必要があります。
単に価値の保存のためだけであれば、すでにゴールドという安全資産が存在し、信用も圧倒的に高いため、ビットコインがその地位を奪うことは難しいでしょう。
そこで、ビットコインがゴールドより優れている部分、すなわち実用性に価値を見出すことが欠かせません。
送金や決済などに利用できる通貨としての実用性と、その実用性をもたらすための世界的な普及が、ビットコインの価値を高めます。
先日、仮想通貨投資ファンド大手のグレースケール社の発表によって、ビットコインを受け入れている企業と非営利団体が、世界で10万社を突破したことが発表されました。
この発表によって、ビットコインの実用面での普及が着実に進んでいる様子がうかがえます。
ビットコインの現在の市場価値は1000臆ドル程度であり、数兆ドルにおよぶ金融市場全体ではごく一部にすぎません。
今後の普及に伴い、ビットコインの価値が認識されていくにつれて、ビットコインの市場規模は拡大していくと考えられています。
特に、ビットコインをはじめとする仮想通貨は、若い世代ほど高い関心を抱く傾向があります。
今後、長い時間をかけて世界の富が後世に受け継がれていくとき、受け継いだ資産をビットコインに振り分ける人も増えていくと予想されます。
これも、今後のビットコインの価値を高める要素になると考えられます。
このような展開が進めば、1BTCの保有によって富裕層の仲間入りを果たせるという予想も成り立ちます。
考え方のバランスに疑問も
もっとも、1BTCの保有によって富裕層になれるとする考え方は、現在の価値においてビットコインに投資し、その価値が下がらない、つまり価値の保存手段としての機能も期待しつつ、長期的な価値の上昇を見越して手元に留めておくことで初めて成り立ちます。
これは、1970年代に10年間で1365%ものリターンを生み出した、ゴールドへの投資と同じ結果を期待するものです。
しかし、ビットコインの価値が上昇するためには、ビットコインの普及が絶対条件です。
ビットコインの普及のためには、ビットコインを送金や決済のために積極的に利用し、手放す人が増えることが前提となります。
つまり、現在の価値が保存されること、そして将来的な価値の上昇を見込んで手元に留めておく姿勢は、普及促進とは逆のベクトルの考え方なのです。
このため、ビットコインをデジタル・ゴールドと称してゴールドのような役割を期待し、なおかつ普及を促そうとする考え方に疑問の声も挙がっています。
ビットコインとゴールドには様々な相違
実際、ビットコインとゴールドは、様々な点で異なります。
まず、ゴールドは古くから砂金や金貨として決済手段として活用されてきました。
それが、現在では価値の保存手段として認められています。
ビットコインも、決済手段として普及し、活用され、やがて価値の保存手段として認識される流れを想定すれば、ゴールドとかなり似ていると言えます。
また、ゴールドの特徴のひとつは、希少性があり偽造が難しいことであり、発行総数に上限があり、ブロックチェーン上で機能するビットコインはこの点でも似ています。
しかし、長い歴史の中で価値の保存手段としての地位を確立したのに対し、ビットコインの歴史は浅く、価値の認識は一定していません。
また、ゴールドが決済手段となり、流通を目的として利用されていた時代と、現在を比較すれば、経済の枠は大きく異なります。
だからこそ、ゴールドよりもビットコインのほうが実用面で優位に立っているとも言えます。
しかし、ビットコインを通貨として、決済や送金の手段として考えたとき、やはり価値の保存という意味ではゴールドに劣ります。
例えば、通貨はインフレによって相対的に価値が目減りするのに対し、ゴールドはインフレの影響を受けにくいという特徴があります。
一方、ビットコインが実用面での普及を果たし、法定通貨を淘汰し、送金や決済に利用される通貨として機能した場合、インフレによってビットコインの価値は目減りすると考えられます。
1BTCの価値が100万円、ある商品の価値が100万円であれば、この商品を1BTCで買うことができます。
しかし、インフレによってこの商品が105万円に値上がりすれば、購入のためには1.05BTCが必要となり、相対的にビットコインの価値は目減りするのです。
このように、実用化されたビットコインにはインフレヘッジの機能がなく、ゴールド並みの価値保存機能は期待できないのです。
極論すれば、ゴールドの価値保存機能は、実用性と流通性の低さに依る部分が大きいと言えるのですから、ビットコインの実用性と流通性が高まるにつれて、ゴールドとは異なる特徴が目立ってくると考えられます。
価値の判断には時間を要する
8月27日付の日経新聞朝刊では、仮想通貨リブラの評価について、
「お金の主導権をめぐる競争の行き着くところは、法定通貨と仮想通貨の信認争い。世界のいずれかの法定通貨がリブラとの信認争いに巻き込まれる蓋然性を否定できない」
「ユーザーがどのような価値を得られるのか、議論される段階で初めて本当の評価ができる」
といった、複数の専門家の意見が掲載されています。
この評価は、リブラに対する意見であると同時に、仮想通貨全体、あるいはビットコインに対する評価とも捉えることができるでしょう。
ビットコインとは何なのか、一般的に共通する認識は定まっていません。
世界経済の中枢には、ビットコインを信用しないとする立場の人も多く、一方でビットコインの保有によって富裕層になれるとする人もいます。
また、仮想通貨業界でも、ビットコインを投機的なリスク資産であるとみなす意見、価値の保存に役立つ安全資産であるとする意見など様々であり、決済手段としての有用性をあまり考慮しない議論も多々見られます。
今後、ビットコインの投資や普及の実態に伴って、ビットコインへの共通認識が徐々に固まってくるはずです。そこで初めて、ビットコインを保有する意味、活用する意味について多くの人が同じように考えるようになり、本当の価値も定まり、評価も一定してくると思います。
仮想通貨業界の一部では、ビットコインをデジタル・ゴールドとする考え方も強いのですが、この考え方については今後も長い時間をかけて議論されていくことでしょう。
とはいえ、上記の通り、ビットコインを受け入れる企業や団体は世界的に増加傾向を続けており、徐々に普及は進んでいます。
これにより、ビットコインの価値が長期的に高まっていくことは十分に考えられます。
ビットコインがゴールドとして機能する、また長期的に保有することによって富裕層になれるほどのリターンが得られる、といった考え方には様々な疑問もありますが、グレースケール社の発表の通り、市場ではビットコインの受け入れが進みつつあるという事実には注目しておくべきでしょう。
まとめ
CZ氏のツイートは、仮想通貨業界内外から注目されています。
基本的に強気な発言が多いことから、CZ氏の発言に惹かれて仮想通貨投資を始める人も多いと思います。
また、CZ氏の発言にはかなり強気な発言も多いものの、全く荒唐無稽とは言えない、一定の根拠のある発言です。この発言がひどく非難されるようなケースはあまりなく、類似する意見を発信する業界関係者が多いことからも、そのことが良く分かります。
しかし、ビットコインをはじめとする仮想通貨の価値は現在定まっておらず、意見の対立もしばしば起こっています。
多くのデータが蓄積されている分野でさえ意見の対立は起こるのですから、歴史の浅い仮想通貨で意見の対立が起こることは当然と言えます。
CZ氏をはじめとする業界関係者の強気の発言によって、仮想通貨への期待を高めるだけではなく、中立の立場で自分なりに考えて投資することが大切です。
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