テザー問題とリブラ問題の影響。暴落の背景を探る

テザー(Tether)

7月10日よるから現在にかけて、ビットコイン価格が大幅に下落しました。

ビットコイン価格が急速に上昇し、ついに上昇相場へと転換したかと言われていた矢先の暴落であり、大きくつまずいた印象があります。

今回の暴落の背景には、テザーとリブラという、根深い二つの問題があります。

本稿では、これらの問題と今回の暴落の関係、今後の展開などについて解説していきます。

暴落の1週間

この1週間、仮想通貨市場は久々に酷い暴落となりました。

ビットコイン価格は、7月10日22時には142万円の終値を付けていたものが、23時の終値136万円と1時間で6万円の急落となり、その後も勢いを保って下落を続けた結果、15日9時の終値は109万円となりました。

5日で20%以上もの暴落です。

また、ビットコインの暴落の影響を受けて、他のアルトコインも軒並み大幅な下落となっています。

XRPで言えば、一時32円台まで落ち込み、今年5月あたりから徐々に回復してきた価格は全く崩れてしまいました。

 

暴落の背景

この暴落の背景には、

 

  • ようやく上昇相場への転換かと期待され、同時にリブラのホワイトペーパーなどの好材料も重なったため、買いが集まっていた
  • しかしその後、リブラへの規制やテザー問題への懸念が高まり、リスク回避や利確のための売りが相次いだ

 

といったことが考えられます。

仮想通貨はボラティリティが大きいこと、信用取引の割合が高いことなどから、急速に買いが集まった時のリスクも非常に大きくなります。

何らかの悪材料から大幅に下落すると、多くのポジションがロスカットを受けることとなり、下落を加速させるためです。

今回の暴落(というよりも、これまでの仮想通貨市場における暴落のほとんど)も、同じ原因によるものです。

特に大きかったのが、テザーの発行と価格操作への疑惑が深まっていること、一時は好材料となったリブラへの規制強化が懸念されていることです。

 

テザー問題に注目が集まる

テザー問題は、これまでも度々取り上げられており、そのたびに市場に様々な影響を与えてきました。

今回の問題も、2018年末からテザーとビットコインの値動きに相関性の高さが指摘されており、価格操作の懸念も高まっていました。

ビットコインが下落を続けている中、テザーが新規発行されることで市場が反騰する動きが多く確認されており、テザーの発行状況によって買いが集まる状況になっていたのです。

このことは、テザーの発行状況を含め、大口取引を確認できるトラッキングBOT「Whale Alert」のシェア数が大幅に増加を続けていたことからも分かります。

このような方針は、投資する金融資産の本質的な価値に基づく投資判断ではなく、問題の渦中にあるテザーの発行を材料として売買するのですから、非常に頼りない方針と言えます。

テザー発行を根拠とした上昇相場が続く中、NYGAがテザー問題に関する多数の証拠を提出したことが報じられたり、メトロポリタン銀行がテザー口座を半年以内に凍結する方針を示したりしたことで、相場の崩壊につながったと考えられます。

 

人為ミスで暴落が加速

さらに、今回の暴落ではWhale Alertのミスも影響しています。

14日、Whale Alertは50億ドルものUSDTが新規発行されたとして反応を示しました。

これまでのUSDTの新規発行は1億ドル程度であったため、その50倍に相当するUSDTが新規発行されたとなれば異常です。

これにより、市場の警戒感が急速に高まったのですが、結局は人為的なミスであったことが報告されました。

いくらテザーの発行が市場の上昇力になってきたとはいえ、テザー問題の現状を考えれば、50億ドルも新規発行を素直に受け取ることはできないでしょう。

さらに、単なる人為的なミスであったのですから、裁判を控えたテザーにとって甚だ好ましくありません。

そもそも、価格操作の疑念があること、つまりテザーの動向を原因とした市場の動きに問題が投げかけられているのです。

Whale Alertにおける人為的なミスが市場に影響を与えたとなれば、これもテザーの動向によって市場が左右された事例と考えることもできます。

極端に言えば、人為的なミスを起こすことで市場を動かせる、つまり市場の操作が可能であるとも言えるのですから、裁判で不利に働く可能性も否めません。

テザー社に関する裁判は、7月29日に予定されています。

この裁判でテザーに不利な判決が下ったならば、市場の上昇を引き起こしてくれるテザーへの期待が薄くなり、これまでのような上昇力を欠くことになります。

以上の懸念から、Whale Alertの報告がミスであったことが判明するなり売りが加速し、さらなる下落を招きました。

29日の裁判は、今後の市場動向を占う重要なイベントとなるでしょう。

 

リブラへの警戒も下落を招く

先日、Facebookがリブラのホワイトペーパーを公表した際には、仮想通貨市場にとって追い風となりました。

リブラ計画が実施されれば、法定通貨からデジタル通貨への移行が大変にスムーズになり、仮想通貨の普及にもつながると考えられます。

このため、仮想通貨業界の主要な人々も、多くがリブラを歓迎しています。

しかし、リブラは金融システムに対してあまりにも大きな変革をもたらす可能性があるとして、各国政府や規制当局は警戒感を強めています。

G20でも懸念の声が挙がっているほか、FBRのパウエル議長も「リブラ計画には個人情報保護、資金洗浄、消費者保護、金融の安定などの懸念があり、徹底的かつ忍耐強く取り組むべきである。12ヶ月以内にリブラ計画を実施するのは難しいだろう」などと発言しています。

さらに、トランプ大統領も多くの仮想通貨を信用していないと発言しており、特にリブラを名指しで批判しています。

この流れを受けて、下院では14日、大手IT企業がデジタル資産を発行・運用することを禁止する議案が提出されています。

また、7月18日、19日には米上院・下院で公聴会が開かれることが決まっており、さらにG7でもリブラを主要議題に取り上げる予定です。

Facebookのような、巨大な影響力を持つ企業が金融に参入することについて、これまでも米国会では問題視する雰囲気がありました。

しかし、議案の提出や公聴会といった具体的な形での動きは初めてのことです。

リブラを叩くために、規制を急速に進めた結果、仮想通貨業界全体の発展を強く制限してしまう可能性もあります。

リブラだけではなく、他の様々な仮想通貨にも同様の規制が適用されれば、多くの人が仮想通貨から資金を引き上げるはずです。

そのリスクに備えるための売りが増えていることも、今回の暴落の原因となっています。

 

今後の進展に注目

テザーやリブラの問題によって、今後の仮想通貨市場がどのように進展していくか、全く予断を許さない状況です。

もちろん、裁判は一朝一夕に結論が出ないものですし、パウエル議長も言っている通り、リブラへの規制も慎重に進められていくことと思います。

仮想通貨市場も、これらの進展によって左右されるでしょう。

短期間のうちに、再び急速に上昇トレンドに入るとは考えにくいです。

また、進展が見られないタイミングで強い空売りが仕掛けられるとも考えにくく、さらなる急落の危険性もそれほど高くないでしょう。

もっとも、再び下落トレンドになっていく可能性もあります。

仮想通貨に投資する人、特にレバレッジ取引をする人の中には、短期的な利益を目的としている人が少なくないからです。

レバレッジ取引はリスクが高いため、投資期間が長ければ、その期間中の急騰落によって損失を被るリスク、すなわち「持ち続けるリスク」も高まります。

また、仮想通貨以前に全く投資の経験がないという人も多いです。

このような人は、リスクコントロールのために短期投資をするのではなく、希望的観測によって投資をし、思ったように利益が得られず、短期間でしびれを切らして決済することで、結果的に短期投資になるケースがよくみられます。

このため、テザーやリブラの問題があまり進展することなく、解決・結論に時間がかかるほど積極的に売買する動きが減り、仮想通貨市場の流動性が乏しくなると考えられます。

市場に資金が流入してこなくなる、つまり需要が乏しくなると、価格は下落していきます。

特にアルトコインの値動きは、出来高との相関性が強いため、流動性が乏しくなるほど下落傾向も強くなるでしょう。

テザーやリブラの問題が長期化することは、仮想通貨市場にとって好ましくありません。

しかし、結論を急げば好ましくない判例や規制につながり、さらなる下落を招く懸念があります。

このことから、現在の仮想通貨市場は、テザーとリブラの問題により、上昇への期待よりも下落への警戒を強めるべき時期と言えるでしょう。

 

価格調整と捉える専門家も

ただし、今回の下落は決して悲観すべきものではないとする専門家もいます。

ビットコインに強気のコメントを続けているトム・リー氏は、自身のツイッター上で、今回の暴落は健全な価格調整だと指摘しています。

トム・リー氏は、先日トランプ大統領が「ビットコインはお金ではない」と批判した際にも、却ってビットコインの知名度向上につながる「最高の宣伝」としています。

大統領発言によりビットコインが強気相場を引き起こし、ビットコインは年内に4万ドルを突破するとみています。

確かに、株でも仮想通貨でも、あらゆる投資対象は一本調子に上昇や下落を続けるものではなく、価格の調整を繰り返すものです。

したがって、今回のビットコインの動きが単なる価格調整であり、年内に4万ドルまで上昇の可能性があるならば、今回の暴落は押し目買いの絶好のチャンスと言えるでしょう。

 

まとめ

テザーとリブラの問題によって暴落を招いた今、注目すべき直近のイベントは18日、19日のリブラの公聴会、そして29日のテザーの裁判です。

これらの動きに注目しつつ、慎重に動きたいものです。

警戒感が強まり、市場が暴落しているタイミングが、割安な価格で仕込めるチャンスになることもあります。

「売るべし、買うべし、休むべし」、「休むも相場」の格言の通り、警戒を強めて全く手を出さないのも投資ですし、警戒しつつ段階的に仕込んでいくのも良いでしょう。

明確な判断基準が得られるまでは、慎重に取り組んでいきましょう。

 

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