テザー社の裏付け資産にビットコインが含まれていたことが判明

テザー(Tether)

5月21日の報道で、テザー社がUSDTの担保資産の一つにビットコインが含まれていることが判明しました。

1USDT=1USDの価値を担保するための資産として、ビットコインははなはだ不適当であることから、テザーに新たな疑惑が投げかけられています。

本稿では、テザー社がビットコインを裏付け資産としていることについて、問題点や注目のポイントを考察していきます。

テザー問題の再燃

先日、ステーブルコインであるテザーの裏付け資産が問題視され、大きな話題となりました。

この問題を復習すると、

 

  • ニューヨーク州の司法長官が、テザー社やBitfinexに対して調査を行ったところ、テザー社では顧客資産と企業資産が混同されており、USDTの裏付け資産となっている資金のうち8億5000万ドル相当が、不正に利用されたことが発覚(Bitfinex・テザー側は否定)
  • ニューヨーク州司法長官から、大手仮想通貨取引所Bitfinexとテザー社の親会社であるiFinex社に対して、裏付け資産の流用をやめること、資産の裏付けを保証を証明する書類を提出するよう、裁判所命令が発令される

 

というものです。

テザー社が発行するUSDTの最大の特徴は、テザー社が発行するUSDTの価値が1USDT=1USDとなるよう、法定通貨や現金同等物によって価値が裏付けられていることにあります。

これにより、USDTは仮想通貨でありながら、常に米ドルに連動するとされています。

もし、裏付け資産が不正利用されていたとすれば、USDTの価値を裏付けている資産が目減りするわけですから、米ドルと連動できなくなります。

だからこそ、

 

  • テザー社は本当に裏付け資産を持っているのか
  • 裏付け資産は本当に米ドルと連動できる資産によって構成されているのか
  • 顧客資産との混同がされていないか

 

などが厳しく見られています。

そこで、裏付け資産を不正に流用したという疑惑が出てきたために、大きな話題になっていたのです。

 

 

裏付け資産の内容にも疑惑

さらに5月21日、テザー社の裏付け資産の内容に問題があることが報じられました。

それは、1USDT=1USDの価値を担保するための裏付け資産の一部に、ビットコインが含まれていたことが判明したのです。

これは、テザー社の関係者によって、ニューヨーク州最高裁判所で明らかにされたようですが、裏付け資産のうちどれくらいがビットコインであるのか、またビットコインが裏付け資産として保有された期間はどれくらいであるか、そういった詳細は現時点では分かっていません。

 

ビットコインで裏付けることのマズさ

仮想通貨に関心のある皆さんなら、このマズさがよくわかると思います。

ビットコイン価格は、2017年初めは10万円前後であったものが、2017年末には一時200万円を超え、2018年は長期の下降トレンドを描いて30万円台まで落ち込み、2019年は4~5月にかけて急速に回復して80万円台になっています。たった2年程度で非常に大きな値動きを記録しているのです。

時価=担保価値と仮定すれば、それぞれの期間における100BTCの担保価値は、

 

  • 2017年初めの担保価値:1000万円(1BTC=10万円)
  • 2017年終りの担保価値:2億円(1BTC=200万円)
  • 2018年の最安値の担保価値:3500万円(1BTC=35万円)
  • 2019年5月の担保価値:8000万円(1BTC=80万円)

 

となり、担保価値が大きく変動していることが分かります。

1ドル=100円と考えたとき、1USDT=100円=1USDが成り立つためには、

 

  • 2017年初めの100BTC(1BTC=10万円)の担保価値(1000万円)では10万USDTの裏付けが可能
  • 2017年終りの100BTC(1BTC=200万円)の担保価値(2億円)では200万USDTの裏付けが可能
  • 2018年の最安値での100BTC(1BTC=35万円)の担保価値(3500万円)では35万USDTの裏付けが可能
  • 2019年5月の100BTC(1BTC=80万円)の担保価値(8000万円)では80万USDTの裏付けが可能

 

というように、裏付け可能となるUSDTの量は大きく変動します。

このように、ボラティリティが大きいビットコインは担保価値も大きく変動し、1USDT=1USDの価値を保つために必要となるビットコインの量も大きく変わります。

 

 

真逆の解釈2通り

裏付け資産に含まれていたビットコインの割合がごく小さい場合にはそれほど影響はないかもしれません。

しかし、それなりの割合が含まれていたとすれば、話は別です。

2017年末(1BTC=200万円)から2018年の最安値(1BTC=35万円)に至るまでに、ビットコインは長期下落によって80%以上も下落しています。

同じ量のBTCでUSDTの価値を裏付けるためには、下落に応じて裏付け資産となるBTCを5~6倍まで増やす必要があり、裏付け資産の構成にも目立った変化が生じるはずです。

今回、裏付け資産にビットコインが含まれていたことは、裏付け資産の不正流用問題の延長として発覚したものです。

資産内容に目立った動きがあったから発覚したものではありません。

このため、

 

  • 担保価値が大きく変動するビットコインが裏付け資産に含まれるのはおかしい

 

というだけではなく、

 

  • ビットコインを裏付け資産にするならば、ビットコイン価格の変動によって担保資産に目立った動きがあったと考えられる。
    ただし、ビットコインによって裏付けられる割合にもよる

 

という疑問が生じます。

この解釈には2通りあり、

 

  1. 1USDT=1USDになるよう、きちんと裏付け資産が確保されていたとすれば、ビットコインの騰落によって裏付け資産の内容が目立って変化していないことを以て、裏付け資産におけるビットコインの構成割合はごく小さいと考えられる。
    あるいは、ビットコインが裏付け資産に含まれていたのは、影響が軽微なごく短期間に限定されていたのかもしれない。
  2. ビットコインが裏付け資産に含まれる期間が長期にわたっており、また構成割合の一定以上(資産内容に与える影響がそれなりに大きくなる割合)含まれていたならば、ビットコインの騰落によって裏付け資産の内容が目立って変化していないことを以て、1USDT=1USDの価値は裏付け資産によって担保されていないと考えられる。

 

という、真逆の解釈が成り立ちます。

この解釈がいずれに傾くかによって、テザー問題は大きな進展を見せる可能性が高いです。裏付け資産に含まれるビットコインの割合、裏付け資産にビットコインが含まれていた時期や期間など、今は明らかになっていないこれらの要素がカギになると思われます。

今後、テザー社に関するニュースがまだまだ出てくると思いますが、裏付け資産とビットコインの関係についても注目したほうが良いでしょう。

 

深まる闇

ここで気になるのが、Bitfinex社のホームページにおけるUSDTの担保資産についての記載が変更されたことです。

今年2月までは、

 

すべてのテザーは、テザー社が保管する法定通貨により、1:1の割合で裏付けられているため、1USDTは常に1USDに相当する。

 

と記載されていたのですが、その直後の3月上旬には、

 

すべてのテザーは、テザー社が保管する法定通貨、現金同等物、その他の資産、テザー社が関連会社を含む第三者に提供するローン債権などにより、100%裏付けられている。これにより、1USDTは常に1USDに相当する。

 

という記載に変更されていたのです。

4月30日の報道では、USDTの26%が米ドルによって裏付けられていないことが、テザー社の弁護士顧問の宣誓供述書によって明らかとなっています。

USDTの供給量は28億ドルですから、7.28億ドル分のUSDTは、法定通貨や現金同等物以外によって裏付けられていることになります。

法定通貨によって裏付けられていれば、1USDT=1USDであることに何の疑いもありません。

しかし、その他資産やローン債権が含まれるとなると、かなり問題があります。

ローン債権の価値は、誰に対する債権であって、債務者の返済能力はどうであるかによって、担保価値が大きく変わります。

100%回収可能な1000万円の債権には、1000万円の価値があるでしょう。

しかし、回収不可能な1000万円の債権の価値はゼロです。

ローン債権の内容については詳しくわかっていませんし、全ての債権が100%回収可能とは言い切れないでしょうから、債務者に大きな問題がなかったとしても、ローン債権の担保価値は債権額よりもいくらか目減りするものと考えるべきです。

その他資産にしてもそうです。裏付け資産に含まれるその他資産の内訳について、なんら説明はありませんが、今回発覚したビットコインが含まれているのはその他資産です。

ビットコインのような変動の大きい資産は、かなり掛け目を大きくして担保評価する必要があります。

仮想通貨によって保全を図るのは困難であり、裏付け資産としては明らかに問題があります。

ビットコインを担保に据えるようなやり方、ひどく言えば無茶苦茶なやり方、およそ担保の本来の目的を成していないやり方によって、「1USDT=1USDです」と主張されても、鵜呑みにはできないでしょう。

その他資産にはビットコイン以外の資産も含まれているでしょうが、その他資産の内容が全体的に良くないのでは、という疑いが抱かれても仕方ありません。

以上のように、USDTの裏付け資産の内容は、テザー問題が進展(迷走?)するにつれて、どす黒さを感じる報道が多くなっています。

今後も、テザー問題については注意してみていく必要がありそうです。

 

 

まとめ

テザー社には、長期にわたって様々な疑惑があり、そのたびに仮想通貨市場に影響を及ぼしています。

仮想通貨業界の健全な発展、市場の安定のためには、テザー問題が早期に解決されることが望ましいのですが、テザー問題は徐々に深刻さを増しているように思います。

今後、テザー問題が仮想通貨市場に大きな影響を与えることも懸念されるため、当サイトでも目立った動きがあればまとめていきたいと思っています。

 

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