7月から8月にかけて度々話題に上ったビットコインETFは、ウィンクルボス兄弟の申請を始め、複数が却下される結果となってきました。
却下に伴うSECの見解をみれば、容易には承認に至らないのではないか、ビットコインETFの承認には時間がかかるだろうとする見方も強かったのですが、先日、SECの新執行役員が承認されたことで、状況が大きく変化する可能性が出てきました。
これまでのビットコインETF
ビットコインETFは、これまでに何度も却下の憂き目に遭ってきました。
代表的なものでは、ウィンクルボス兄弟の申請するビットコインETFが2度にわたって却下されているほか、8月にも複数のビットコインETFがまとめて却下されています。
却下に伴うSECの公式意見書を見てみると、ビットコイン市場が価格操作に耐えられないものである、詐欺の問題もあって安全性に欠けている、規制が十分に機能していない、流動性に問題があるなど、ビットコインETFの設計に問題があるというよりは、ビットコインや仮想通貨市場そのものを問題視しているような内容でもありました。
このことにより、ビットコインETFはいずれ承認される可能性があるとはいえ、すぐにそうなることはないだろう、ある程度長期的な視点で見ていくべきだろうとする意見が濃厚でした。
特に、まず年内には承認されないだろうとする意見が大半を占めており、2019年の動きに期待するとの声が高まっていました。
しかし、この流れが急に変わる可能性が出てきました。
というのも、9月5日、SECの新執行役員として、仮想通貨推進派のElad Roisman氏が加わったからです。
仮想通貨推進派の加入
Elad Roisman氏は、これまでもフィンテック関連事業を支援してきたことからもわかるとおり、新興技術に積極的な姿勢を見せてきた人物です。
仮想通貨やブロックチェーンなどについても支持しているとみられています。
さらに、Elad Roisman氏はかつて、前SEC委員のDaniel Gallagher氏の顧問弁護士を務めた経歴もあります。
Daniel Gallagher氏は、フィンテックを始めとした革新技術を強く支持してきたことで知られます。
このことから、Elad Roisman氏自身も、仮想通貨推進派であることはほぼ間違いないでしょう。
このように、これまでSECと密接に関係してきた、仮想通貨推進派の人物が執行役員に収まったわけですが、法律の専門家であることも無視できません。
SEC委員の顧問弁護士を務めていたということは、まぎれもなく証券法を中心とした法律の専門家なのです。
ビットコインETFの判断にあたって、これまでのSECの見解とは異なり、Elad Roisman氏が承認すべきという見解を持っていたとすれば、ビットコインETFは承認に向かって大きく前進すると考えられます。
また、仮想通貨推進派であることから、その可能性が高いのではないかと期待されています。
これまで、SECの執行部では、Hester Peirce氏がビットコインETFに好意的な姿勢を見せてきました。
Hester Peirce氏は、7月にウィンクルボス兄弟の申請が却下された時にも、決議に抗議する声明文を発表しているほどですから、かなり強固な賛成の意思があると考えられます。
それでも却下されてきた流れを見ると、Hester Peirce氏ひとりではいかんともしがたいものがあったのでしょうが、ここにElad Roisman氏が加わることでどのような流れになっていくかが見ものです。
執行委員の構成と期待される変化
執行委員について、それぞれの仮想通貨への考えやビットコインETFへの姿勢をまとめると、
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- Jay Clayton氏(委員長)→仮想通貨を技術として認めており、規制に慎重な姿勢(慎重さゆえに否定寄り)
- Robert Jackson Jr.氏(執行委員)→これまで仮想通貨を支持したことがない(強固な否定派)
- Kara Stein氏(執行委員)→ビットコインETFの否定を表明(否定派)
- Hester Peirce氏(執行委員)→ビットコインETFに好意的(強固な賛成派)
- Elad Roisman氏(新執行委員)→仮想通貨など革新技術を支持(賛成派の可能性あり)
となります。
Elad Roisman氏加入以前は、執行部の5つの席のひとつは空席状態にありました。
このため、これまでのビットコインETFの判断の際には、否定派3人と賛成派1人という構成となり、とても承認に向かう状態ではありませんでした。
しかし、今回Elad Roisman氏が加わったことで、否定派3人、賛成派2人になる可能性があります。
もっとも、Elad Roisman氏のこれまでの経歴から、仮想通貨やブロックチェーンを支持していることは間違いないでしょうが、だからといってビットコインETFも支持しているとは限りません。
実際、仮想通貨推進派の中にも、ビットコインETFを否定的に見ている専門家は散見されます。
賛成派に回るとする見方の根拠として、仮想通貨推進派であること、そしてHester Peirce氏と同じく共和党員であることも挙げられていますが、ビットコインETF賛成派に回る根拠としてはやや弱いようにも感じます。
反対派と賛成派のどちらに回るかを常識的に考えた時、賛成派に回るとみるのが普通という感じでしょう。
もし、Elad Roisman氏が賛成派になれば、否定派と賛成派は3:2となり、承認には一歩届きません。
しかし、確実にビットコインETFに近づく流れになりますし、否定寄りの立場を取ってきたJay Clayton氏が賛成派に転向する可能性もあります。
というのも、委員長のJay Clayton氏は、これまで仮想通貨という新しい技術を阻害しないように規制を進めていくべきだとする意見をもっており、ビットコインETFは否定している一方で、仮想通貨そのものについては推進派と言えます。
このため、Elad Roisman氏の加入によって、ビットコインETFを承認すべき新たな見解などが示されたとすれば、Jay Clayton氏も賛成派に回る可能性があるとみられているのです。
また、Elad Roisman氏が加入する前の4人体制の時には、明確な反対派は2人、明確な賛成派は1人であり、ここでJay Clayton氏が賛成派に回ってしまうと、反対派と賛成派が2:2で拮抗し、SECの判断が保留される状況にありました。
保留となれば、SECの態度を明確に示せない状況に陥ってしまいます。
だからこそ、Jay Clayton氏は反対派に回り、あえて3:1の状況を作っていた可能性があります。
もし、Jay Clayton氏が、SECとしての立場を明確にするために反対派に回っていたとするならば、今回Elad Roisman氏が加入し、賛成派と反対派で2:2の状況になったとき、賛成派に回ると考えられます。
さらに、否定派のKara Stein氏については、オバマ政権の時に委員に任命された人物であり、任期は2018年12月までです。
ビットコインETFの可否判断がKara Stein氏の退任以降に行われる場合、後任の否定派が委員に参加していなければ、否定派が一人減った状態で判断されることとなり、ビットコインETF承認の可能性が高まると言えます。
Elad Roisman氏の立場
執行委員にElad Roisman氏が加入したわけですが、仮想通貨を始めとした新興技術に積極的であるものの、ビットコインETFに賛成しているとする情報は見られません。
そのため、仮想通貨は推進しつつも、ビットコインETFについては慎重な態度をとる可能性もあります。
ビットコインETFの承認のためには、Elad Roisman氏がどのような立場をとるかが今後非常に重要になってくるといえます。
それを知るための手がかりとして、Elad Roisman氏の最近の発言がいくらか参考になるかもしれません。
Elad Roisman氏は今年7月、上院銀行委員会の公聴会で、SECの役割について以下のように発言しています。
SECは、本来の使命を果たすために十分に発揮できているだろうか慎重に検証する必要があるだろう。
最近はデータ保護やサイバーセキュリティといった分野が話題になっているほか、ICOやブロックチェーンといった新しい投資分野と技術が登場したことで、SECの果たすべき重要性はいよいよ高まっている。
これまで以上に、公正で透明性の高い方法で取り組むことで、市場と投資家には明確さと確実さをもたらし、市場参加者に責任を負わせるような法律や規制を執行していくことが不可欠である。
この発言で気になるのが、SECがきちんと機能しているかどうかを検証する必要があるという部分です。
SECがきちんと機能していると思っていれば、このような発言が出てくるとは考えにくいですから、なんらかの問題を見出しているのでしょう。
それが、仮想通貨とは関係のない部分についてであるのか、ビットコインETFの判断についてであるのか、明らかではありません。
しかし、SECの機能に疑いを向けるような発言に続き、ICOやブロックチェーンについても言及していることから、SECの仮想通貨への対応を問題視しているとも考えられます。
この発言の通り、SECの機能について検証を重ね、ビットコインETFへの判断についても検証し、Elad Roisman氏がビットコインETFは承認すべしとの結論に至れば、それがJay Clayton氏の賛成を誘う可能性も出てきます。
いずれにせよ、Elad Roisman氏の加入によって、ビットコインETFの状況は大きく変化していくかもしれません。
ビットコインETFの行く末を見ていく上で、Elad Roisman氏の動きにも注目していきたいものです。
まとめ
単に一人の委員が加わっただけでは、それほど状況が大きくかわらなそうなものですが、今回はその人物が特殊です。
少なくとも仮想通貨については推進派であり、ビットコインETFを支持することも十分に考えられる人物であり、さらに証券法の専門家なのです。
また、Elad Roisman氏が加入することで、他の委員の立場にも影響を与える可能性があるほか、否定派の退任が近いことなどもあり、ビットコインETFを取り巻く環境が大きく変わろうとしています。
今後、近いうちにビットコインETFについて新しい動きが出てくるかもしれませんので、注意を向けておきましょう。