仮想通貨交換業協会の自主規制内容が明らかに

国内取引所

今年7月にも、仮想通貨交換業界が自主規制の方針を打ち出したこと、中でもレバレッジの上限を4倍とする方針が打ち出されていたことは、当サイトの記事にもまとめていました。

その方針について、9月12日、自主規制の具体的な内容が公表されることとなりました。

具体的な内容を見てみると、レバレッジ規制の他にも、注目すべき内容がいくつか見られましたので、本稿ではその点についてもまとめていきます。

自主規制の全体像

今回公表された自主規制に関する資料は、第五回目にあたる「仮想通貨交換業等に関する研究会」で配布された「仮想通貨交換業に関する自主規制の概要について」という資料で、金融庁のホームページにも公表されています。

(研究会の詳細な情報と資料については金融庁ホームページにて。https://www.fsa.go.jp/news/30/singi/20180912.html

この資料は、仮想通貨交換業協会の業務内容や立ち位置、自主規制についての考え方、仮想通貨に対する考え方、協会が求める仮想通貨交換業者のあり方などで構成されています。

金融庁の発表してきた内容と被る部分も多いため、それについては割愛するとして、特に注目すべきと思われるものを取り上げていきます。

 

 

新規の仮想通貨への対応について

ビットコインやイーサリアム、リップルといった代表的な仮想通貨以外にも仮想通貨は非常に多く存在しており、新しい仮想通貨が爆発的に増加してきました。

海外の取引所では、マイナーな仮想通貨を積極的に取り入れることで人気を高めている業者もあります。

世界的に見ても、新しい仮想通貨を積極的に採用する取引所はそれほど多くなく、一般的な取引所ではメジャーな仮想通貨を中心に取引を提供しています。

このため、取引できる仮想通貨の種類を増やすことは、ある意味で取引所の人気を高めるための手っ取り早い手段にもなり得ます。

日本においては、金融庁が慎重な姿勢を取っていることから、安易にアルトコインを取り入れる取引所はありません。

しかし、まだ仮想通貨業界の方向性は定まっておらず、法的整備も整っておらず、新規の仮想通貨を取り入れるにあたって、どのように判断すべきかという基準はありませんでした。

今回の自主規制内容を見てみると、この点について言及がなされていました。

すなわち、「仮想通貨の取り扱いに関する規則」という部分で、

 

新規の仮想通貨を取扱う場合、会員による内部審査を行った上、当協会への事前届出を必要とし、当協会が異議を述べた場合は取扱い不可とする。

 

と明記されています。

このことから、新規の仮想通貨を取り入れる場合には、協会の判断というフィルターにかけられることとなります。

もっとも、後述の通り、協会の判断とはいっても金融庁の方針を踏まえての判断です。

金融庁の慎重な姿勢から考えても、協会が新しい仮想通貨を簡単に認めるとは考えにくく、新規の仮想通貨はなかなか採用しにくい状況になるのではないかと思います。

 

匿名通貨への対応について

匿名通貨への規制は、これまでも度々議論されてきました。

マネーロンダリングや犯罪資金に使われたり、ダークウェブでの決済に用いられたりすることが問題視され、世界的にも議論の対象となっています。

日本の金融庁では、早い段階から匿名通貨への厳しい姿勢を見せており、4月末には匿名通貨であるモネロとダッシュを規制の対象とすることを発表しました。

このような姿勢を受けて、かつて匿名通貨を取り扱っていたcoincheckが、金融庁の認定を目指して匿名通貨の取り扱いを停止したことも、記憶に新しいかと思います。

日本では、世界に先駆けて匿名通貨への規制に乗り出しましたが、6月にはニューヨーク規制当局が匿名通貨を承認しています。

仮想通貨先進国である日本とアメリカの両国で真逆の対応になっていることから、匿名通貨への世界規模での規制は今後も難航しそうです。

ただし、仮想通貨交換業協会としては、金融庁の方針を踏襲していくことから、自主規制でも匿名通貨の取り扱いを禁止していく方針です。

今回の資料の中でも、

 

移転記録の追跡ができない又は著しく困難な仮想通貨(いわゆる匿名仮想通貨)については、AML/CFTや適切な監査の実施の確保の観点から問題があるため、これら問題が解決されない限り禁止。

※AML/CFT・・・AMLはマネーロンダリング防止、CFTはテロ資金供与対策のこと

 

との内容が盛り込まれています。

日本の規制当局ではモネロとダッシュについてのみ規制対象としているのですが、協会の自主規制では匿名通貨全般にわたって規制の対象としていくようです。

 

 

レバレッジ規制について

今回の自主規制の最大の目玉とも言えるレバレッジ規制ですが、これは以前発表された方針と同じく、レバレッジの上限を4倍とする自主規制になるようです。

これについて、今回の資料では、

 

協会指定水準=4倍(証拠金率25%)又は会員自身が決定する水準の選択利用(1年限りの暫定措置)

 

と明記されています。

これにより、レバレッジ4倍を協会の指定水準とし、今後1年の猶予期間を通して、協会の会員である認定業者全てにおいて、この指定水準に合わせていくこととなります。

なぜレバレッジを4倍にするのかということについては、疑問もあると思います。

これによって、ハイリスクハイリターンという、ある意味での仮想通貨投資の魅力は大きく損なわれ、投資家離れを引き起こす可能性もあるわけです。

この資料では、レバレッジ4倍の根拠について、以下のように述べています。

 

“#fff”]※協会指定水準(4倍)の根拠

2018年3月31日を起点にその前3か月、1年、3年を対象期間とし、主要な仮想通貨であるビットコインの日次価格変動率をサンプルとした。

未収金の発生を予防する観点からサンプルの99.5%が収まるラインを適正値とし、いずれの期間でもこのラインに収まる値を抽出。

この結果、変動率約25%という値が得られたため、証拠金倍率を4倍に設定

※未収金・・・相場が急変してロスカットが間に合わなかったとき、証拠金を割り込んで発生する損失のこと。
投資家が取引所に預け入れた証拠金以上の損失を出すことであり、投資家保護の観点から大きな問題とされる。

 

この説明によると、過去の特定の期間におけるビットコインの変動率を根拠として、未収金が発生しにくい水準を割り出したところ、レバレッジ4倍が適正だと判断したとのことです。

この判断が適切なものであるかどうか、専門的にどう解釈すべきか分かりませんが、仮想通貨投資のリスクが大きく引き下げられることは間違いないでしょう。

ハイリスクハイリターンの魅力は失われますが、仮想通貨の大きな問題とされてきたリスクについては大幅に抑えられることと思います。

レバレッジを低く抑えて一攫千金の幻想を打ち消すことで、ギャンブル的に仮想通貨投資に取り組むケースや、投資未経験者が小口の資金を安易に突っ込むケースは少なくなるでしょう。

業界の健全な発展を目指す協会としては、このような自主規制は当然なのかもしれません。

 

業者ごとにレバレッジ規制の進め方は異なるはず

また、

 

1年以内に会員における未収金の発生状況を勘案し、協会指定水準に統一。

 

との記載もあります。

今後1年をかけてそれぞれの業者のペースで自由にやっていくというよりは、その業者の状況を踏まえながら、場合によっては速やかに、この水準になるように求めていくものと思われます。

仮想通貨はボラティリティが大きいことから、未収金が発生しやすい環境にあると言えます。

とりわけ、レバレッジ上限が高く設定されている業者や、ロスカット基準が低く設定されている業者では、未収金がより発生しやすくなります。

未収金の発生状況を考慮しながらレバレッジ規制を進めるならば、業者によって未収金の発生しやすさが異なるのですから、業者ごとに規制の進め方も異なるでしょう。

そこで協会は、

 

自ら倍率を決定する会員の利用者において1年内に未収金が生じた場合には、その時点で当該会員は未収金が発生することのない水準に速やかに倍率を切り下げなければならないことを規定。

 

という方針を定めました。

1年の暫定期間中、各業者の裁量でレバレッジ上限を協会指定水準へと引き下げていくわけですが、その引き下げ方について、未収金が発生した場合には即刻水準を引き下げなさいという方針です。

ともかく1年以内に指定水準に引き下げればいいというのではなく、業者ごとに、速やかに引き下げなければならない場合もあるでしょうし、ゆっくりとタイミングを計って引き下げられる場合もあるでしょう。

この辺は、それぞれの業者の置かれている状況によると思いますが、現時点でレバレッジ上限が高い業者や、ロスカット基準が低いほど未収金が発生しやすく、協会指定水準への引き下げが早くなると思われます。

 

ロスカット基準はどうなる?

また、本当の意味でリスク低減に努め、未収金が発生しない状況を作っていくならば、ロスカット基準についても何らかの規制がされそうなものです。

しかし、ロスカットについては、

 

ロスカット取引の導入を規定、未収金(証拠金を上回る損失)が発生した場合には協会に報告。

 

となっているだけで、証拠金維持率を具体的に何%にするというような記載は見られません。

未収金発生の報告を義務づけていることから、まずはレバレッジ規制を進め、それでも十分に問題が解消されなかった場合に、ロスカットへの規制も設けていくのかもしれません。

 

 

金融庁の方針とイコール?

なお、仮想通貨交換業協会は、8月2日、認定資金決済事業者協会として金融庁に申請しています。

現段階では承認も否認もされていませんが、金融庁の認定を受けて活動を展開していく方針です。

金融庁の認定を受けて活動していく以上、金融庁の方針に沿って、金融庁の規制内容よりも深い部分での自主規制が行われていくものと思われます。

したがって、新規の仮想通貨の採用、匿名通貨への対応、レバレッジ規制など、上記の色々な自主規制内容は、金融庁の方針に沿ったものであると考えて良いでしょう。

匿名通貨への対応などがまさにその通りだと言えますが、まず金融庁の方針があって、仮想通貨交換業協会の動きはそれに追随するものとなるでしょうから、そのような見方をすると自主規制のあり方も理解しやすくなるものと思います。

 

まとめ

今回の資料を見て思ったのは、協会のあり方や考え方、自主規制方針などについて明確に示されているということです。

これまでも、色々な形で方針を発表してきたものの、今回ほど具体的なものではなかったように思います。

しかし、今回の資料から、しっかりとした自覚もうかがわれ、規制方針も金融庁の方針に沿ったものであり、これからの仮想通貨交換業者の理想的な歩み方が明らかになりました。

この方針がきちんと守られ、これが業界のスタンダードになっていけば、仮想通貨業界は健全なものに近づいていくことでしょう。

少なくとも、かつてのような無法地帯さながらの環境に逆戻りすることはないでしょうから、業界の今後に明るい期待が持てます。

 

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