先日、SECに提出された文書によって、ハーバード大学基金が仮想通貨の購入に動き出したことが分かりました。
ハーバード大学基金といえば、世界一の規模を誇る大学基金であり、運用成績もピカイチです。
また新しい分野が初期の段階で投資し、成功を収めた実績も多いことで知られています。
ハーバード大学基金が仮想通貨投資に動き出したことで、機関投資家が参入してくる気運が高まっているとも考えられ、大きな話題となっています。
ハーバード大学基金が仮想通貨購入に動く
先日、SECに提出された資料によって、ハーバード大学基金が仮想通貨の購入に動いたことが明らかになりました。
ハーバード大学基金は、投資業界では極めて注目度の高いことから、このニュースは仮想通貨業界でも話題となっています。
ハーバード大学基金について
大学法人には基金が設置されており、個人や法人からの寄付金を運用することによって、大学の整備、学生への支援、研究活動などを推進しています。
日本国内でも、慶應義塾大学、早稲田大学、東京大学などの大学基金が有名ですが、世界的に見ればかなり小規模です。
2015年データでは、慶応義塾大学が481億円、早稲田大学が274億円、東京大学では100億円程度とされています。
日本でも、今後は急速的に大学基金の重要性が高まり、基金規模は拡大していくとみられていますが、世界レベルに到達するにはまだまだ時間がかかるでしょう。
全世界の大学基金のうち、最大の基金規模を誇るのはハーバード大学基金であり、3兆8800億円もの規模を誇っています。
年間800億円もの寄付金を集めていることから、年間の寄付金額だけで日本最大の大学基金の規模を超えてしまうほどです。
このほか、イエール大学やプリンストン大学なども、巨大な大学基金として知られており、アメリカは大学基金の活動が特に活発です。
記録的な運用成績
さらに見るべきは、これらの大学基金では、規模の大きさもさることながら、運用成績も驚異的であるということです。
1997年から2016年までの20年間における、ハーバード大学基金とイエール大学基金の運用成績を見てみると、ハーバード大学基金は累積618%・年換算9.5%、イエール大学基金は累積975%・年換算12.1%のリターンを挙げています。
過去20年間をベースとして見たとき、ハーバード大学基金はイエール大学基金の運用成績を下回っていますが、これはハーバード大学内で運用チームと基金が対立したことで、パフォーマンスの悪化を招いたためです。
しかし、ハーバード大学基金設立以来の運用成績を見れば、年換算で15%以上の成績をあげることも珍しくなく、これは生き馬の目を抜く投資の世界でも驚異的と言っていい成績です。
投資の世界で生き残るためには、敗者のゲームに徹すること、つまりミスをしないように投資していくべきこと、そのためには市場に広く投資するインデックス投資で長期にわたって運用し、市場と同水準の成績を確実に納める方針がベストだと言われます。
長期投資の研究者・経済学者として有名なジェレミー・シーゲル、著書『敗者のゲーム』で有名な投資コンサルタントであるチャールズ・エリス、投資会社であるバークシャー・ハザウェイを率いるウォーレン・バフェットなど、口をそろえて「市場に勝つことは困難だ」と言います。
市場に勝つことが困難であることは、投資のプロたちのほとんどが市場の運用成績を下回ってきた歴史的事実から明らかであり、だからこそ市場を上回る成績を上げ続けるごく一部の投資家が、「伝説の投資家」「天才投資家」などともはやされるのです。
では、「基本的に市場には勝てない」と言われている「市場の成績」ですが、これも1997~2016年のS&P500のリターンでみてみると、累積385%・年換算7.0%のリターンとなっています。
つまり、ハーバード大学基金やイエール大学基金の運用成績は、基本的に勝てないと言われている市場に確実に、しかも大差をつけて勝ち続けてきたことが分かります。
だからこそ、大規模かつ好成績を収め続けている大学基金の運用方針は、投資の世界で常に注目を集めています。
ハーバード大学基金のポートフォリオ
安定した収益を上げ続けているハーバード大学基金の投資の方針は、長期運用と分散投資にあります。
長期投資を基本とするのは当然として、どのように分散しているかが重要となります。
ハーバード大学基金のポートフォリオを見ると、米国株、外国株、エマージング国株、債券にそれぞれ資産の10%弱を分散し、ポートフォリオ全体の3~4割を割り振っています。
残る6~7割を占めるのがオルタナティブ資産です。
オルタナティブ資産とは、国内株式・外国株式・国内債券・外国債券の4種類を指す「伝統的資産」の対極にある資産であり、「代替資産」ともいわれます。
投資の対象は多岐にわたり、コモディティ・ファンド・インフラ投資・金融デリバティブ・未公開株式・美術品・不動産などが含まれます。
単なる長期分散投資の機関投資家と比較して、オルタナティブ資産への投資配分が大きくなっているところに特徴があります。
もし、株式の配分が高ければ、リーマンショックなどで株価が急落した場合にパフォーマンスが大きく下がることになります。
しかし、オルタナティブ資産によってパフォーマンスの向上を図ることによって、常に市場に勝ち続けてきたのです。
今回、ハーバード大学基金が購入した仮想通貨も、オルタナティブ資産への投資の一環と言えます。
これまでにもハーバード大学基金は、機関投資家が参入していない分野に初期段階で投資し、成功を収めてきた実績があります。
今回も、ハーバード大学基金が仮想通貨に動いたことによって、仮想通貨投資はまだまだ初期段階にあること、仮想通貨の評価が高まっていることなどがうかがえます。
仮想通貨業界への影響は?
記録的な運用成績を出し続けていることから、ハーバード大学基金のポートフォリオにはおのずと注目が集まります。
ここで除外された投資対象は危ぶまれ、ポートフォリオに積極的に組み込まれる投資対象は安全視されることも多いです。
したがって、代表的な仮想通貨ではないものの、ハーバード大学基金が仮想通貨の価値を認め、ポートフォリオに組み入れたことは、機関投資家が仮想通貨投資に動くきっかけとなるかもしれません。
これまでにも、機関投資家が仮想通貨を始めているといった情報は少なからずありましたが、具体的にどのように投資されているかについては、よくわからない部分が大きかったと言えます。
機関投資家が仮想通貨企業に出資し、間接的に仮想通貨に投資するケースはあっても、トークン自体に投資することを公にするケースは、極めて異例です。
しかし今回、超一流の機関投資家であるハーバード大学基金が名乗りをあげたことにより、機関投資家による具体的な投資姿勢を垣間見ることができました。
今後、機関投資家の参入が増えてくれば、これまでとは比較にならないほど、仮想通貨市場に多くの資金が流入してくることになるでしょう。
流動性が高まれば、これまで仮想通貨の大きな問題とされてきた、ボラティリティも小さくなると考えられます。
市場参入者のレベルが高まれば、ごまかしの利かない環境づくりが促進され、価値のない仮想通貨が淘汰される、仮想通貨取引に伴う不正行為ができなくなるなど、仮想通貨市場の健全化にも拍車がかかることでしょう。
あくまでもSTOへの投資
もっとも、これはビットコインやイーサリアムといった、日本でもよく知られている代表的仮想通貨を購入するわけではなく、ブロックチェーン企業Blockstackが発行するStack Tokenを約9600万枚購入するというものです。
Blockstackが発行するStack Tokenは、SECの規制の下で5000万ドルのトークンを発行・販売する計画を明らかにしています。
SECはこれまで、仮想通貨への規制に慎重な姿勢を貫いてきました。
Stack Tokenの発行は、SECの規制下で発行される初のトークンであるため、これが承認されることは仮想通貨業界にとって大きな意味を成すでしょう。
現時点では、Blockstackの資金調達計画が明らかになっていること、ハーバード大学基金が名乗りをあげていることが分かっているだけで、具体的なことは不明です。
しかし、Stack TokenがSECの特例に準拠する形で資金調達を見据えていることは事実であり、それがかなり具体的であるからこそ、ハーバード大学基金が名乗りをあげていると考えるのが自然です。
STOについて
なお、これまでトークンが発行・販売される際には、規制そのものがほとんど整備されていないことから、ICOが利用されるのが普通でした。
しかし、世界的に規制強化の流れにあること、投機性が強すぎることが問題視され、中国のようにICOを禁止する国もあります。
このため、最近では一時期ほど、ICOが活発ではなくなっています。
その中で成長しつつあるのが、STOによるトークンの発行・販売です。
STOは「セキュリティー・トークン・オファリング」の略であり、SECの規制下でセキュリティー・トークンを発行・販売するものです。
セキュリティー・トークンとは、取引可能な資産によって価値が裏付けられているトークンのことです。
価値の裏付けがあることから、SECの特例にのっとって発行することができます。
一方、ICO(イニシャル・コイン・オファリング)は、様々なトークンを発行・販売するためのものであり、色々なトークンが発行できる一方で、有象無象のトークンが乱発される危険性もあります。
今回、ハーバード大学基金は仮想通貨の購入に動いたものの、あくまでもSTOによって発行されたものを選んでいることを見逃してはなりません。
仮想通貨の可能性を認めたからこそ投資に動いたのでしょうが、それは投機性の高いビットコインその他の仮想通貨ではなく、あくまでも信頼性の高い通貨に限定されています。
このことから、機関投資家の方針は、仮想通貨規制のあり方によって大きな影響を受けることが分かります。
機関投資家の参入のためには、仮想通貨を規制する側の姿勢が重要であり、また仮想通貨を発行する側も規制を準拠する姿勢が重要になってくることでしょう。
今後の機関投資家の動きを占うためにも、仮想通貨関連の規制には注目していく必要がありそうです。
まとめ
ハーバード大学基金は、超一流の機関投資家であり、業界からの注目度も非常に高いです。
そのハーバード大学基金が、オルタナティブ投資の一環として、仮想通貨の購入を公にしたことは、機関投資家が仮想通貨投資に意欲的になっている事例として注目すべきです。
現時点では、実際に購入に至るかどうか定かではありませんが、購入に至らなかったとしても、機関投資家の仮想通貨投資に対する意欲は、確実に高まっているとみることができるでしょう。
今後の仮想通貨業界を見据えるべく、機関投資家の動きには今後も注目していきましょう。