仮想通貨の普及を妨げるサイバー攻撃。保険市場も動き始めた

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仮想通貨市場の発展は、国内外の規制当局や政府の方針によって大きく左右されます。

現在、大局的には慎重姿勢で少しずつ取り組んでいる状況ですが、そのような慎重姿勢とは無関係に、仮想通貨業界では様々な出来事が起こっています。

中でも、サイバー攻撃による仮想通貨の流出は後を絶たず、これが仮想通貨の普及を妨げる大きな原因となっています。サイバー攻撃への懸念を払しょくしない限り、仮想通貨の普及はなかなか進まないでしょう。

本稿では、国内外におけるサイバー攻撃への懸念、これに商機を見出す保険市場の動きなどをまとめていきます。

仮想通貨業界の課題

仮想通貨が一般的に認知され始めたのは2017年頃からであり、当時の仮想通貨業界界隈では、強気の意見が少なくありませんでした。

仮想通貨は社会に急速に普及していき、数年の内に法定通貨に取って代わるとする意見、「年末には○万ドルに上昇」といった意見が多く見られました。

しかし、それから2年以上が経過した今、仮想通貨はまだまだ普及しているとは言い難い状況にあります。

実用化の目途は立っておらず、価格の基準も定まらず、実用性よりも投機性に注目されていることは、2017年とほとんど変わっていません。

このような状況に陥っている大きな原因は、世界中の政府や金融関連機関が、仮想通貨との適切な向き合い方に答えを出しかねているからです。

仮想通貨とは一体どのようなものなのか、普及によってどのような影響をおよぼすものなのか、安全性は十分であるのかなどについて、不明点があまりにも多いことから、懸念を示すほかなく、普及の妨げとなっているのです。

もっとも最近では、Facebookのリブラ構想が打ち出されたことによって、各国政府は早急に議論を進め、規制の枠組みを作っていくことを求められており、やや進展の兆しが見え始めています。

金融庁長官の発言

それでも、仮想通貨は技術面での課題を多く抱えていることから、政府が普及を後押しするのはまだまだ難しいようです。

今月5日、金融庁と日本経済新聞社が共同開催したフィンサム2019において、金融庁の遠藤俊英長官は、以下のように語っています。

 

「(ブロックチェーン技術が進展したことにより)今後、規制の効果が十分に及ばないような状況が想定される。

従来の金融規制にかわる、新たなアプローチを開拓することが必要だ。」

 

遠藤長官は、昨今目覚ましい発展を見せているブロックチェーン技術に肯定的であり、仮想通貨業界にとっては好ましい人物と目されています。

しかしながら、遠藤長官は、技術の発展に規制の整備が追い付いていないことを憂えているようです。

ブロックチェーン技術そのものには肯定的でありながら、このような憂慮があることから、仮想通貨全般を全面的に肯定するには至っていません。

ビットコインをはじめ、多くの仮想通貨は非中央集権的な仕組みによって機能しており、管理者がいません。

管理者が不在でも問題なく機能していくために、ブロックチェーン技術が取り入れられているのですが、実際に不正アクセスによる流出が後を絶たず、セキュリティが万全とは言い難い状況が続いています。

さらにIT業界には、ブロックチェーンが内蔵する暗号技術は、10~15年程度でハッカーに破られると言い切る専門家もいます。

この問題が解決されない限り、規制の整備も難航すると考えられます。

サイバー攻撃の被害が拡大

現在、セキュリティ技術はサイバー攻撃に劣っていると言って良いでしょう。

これは、実際にサイバー攻撃による被害が拡大していることをみれば疑いがありません。

先日、国連安保保障理事会の北朝鮮制裁委員会の報告によって、北朝鮮が各国の金融機関に対してサイバー攻撃を仕掛け、直近の3年間で最大20億ドルの資金を奪ったことが明らかとなりました。

この3年間で、攻撃の対象となった国は17か国であり、少なくとも35回の攻撃が実施されているとのことです。

このような国連の報告は初めてではなく、これまでにもしばしば報告されてきたことです。

北朝鮮はこれを強く否定していますが、北朝鮮の主張よりも国連の主張を信じておくほうが間違いないでしょう。

このほか、ハッキングだけではなく、軍部主導で不正なマイニングも行なっていることが報告されています。

なお、この報告によれば、サイバー攻撃や不正マイニングの具体的な手法も把握しているとのことですが、裏を返せば、具体的な手法が分かっていながら防ぐ手立てがないとも言えます。

遠藤長官はフィンサム2019の講演で、今後、日本が主導して国際研究体制を整備していき、世界規模での規制を整備していく考えを明らかにしています。

G20の枠組みを軸として、各国の規制当局、中央銀行、大学・研究機関などから専門家を招くほか、ブロックチェーン関連の開発者や企業に参加を募るとのことです。

仮想通貨が普及していくためには、システムを安定させ、仮想通貨が盤石の安全性を備える必要があります。

サイバー攻撃に対応できない限り、仮想通貨業界が普及を推進しても、個人投資家の関心が高まっても、機関投資家が参入しても、各国の政府や規制当局、中央銀行などは普及に難色を示すでしょう。

仮想通貨が単なる投機の対象から、実用的なものへと昇華するためにも、サイバー攻撃で破られることのないセキュリティの開発が急務となっています。

保険市場の動きにも変化

サイバー攻撃の激化に対し、政府や規制当局は強い懸念を示していますが、一方で商機を見出している業界もあります。

保険業界が、仮想通貨業界の取り込みに動いているのです。

2017年、仮想通貨関連の保険は存在していませんでした。

しかし最近、仮想通貨保険市場が拡大の兆しを見せています。

目立った事例では、サイバーセキュリティ保険のスタートアップとして知られる、サンフランシスコのCoalition社が、設立から2年で1万社以上の顧客を獲得しています。

サイバー攻撃の激化に伴い、自社が攻撃対象となった場合に備えて、サイバーセキュリティ保険に加入する企業が急増しているのです。

特に注目すべきは、Coalition社の顧客のうち500社以上が仮想通貨関連企業であることです。

仮想通貨取引所はもちろんのこと、デジタル資産ヘッジファンドも顧客になっています。

Coalition社の共同創設者であるJoshua Motta氏は、フォーブス氏の取材に対し、

 

「現在、仮想通貨保険市場は2~5億ドルの保険料収入を得ている。

サイバーセキュリティ保険は、年20~25%のペースで急成長している。しかし、仮想通貨保険市場はそれを上回るペースで成長すると予想している」

と発言しています。

仮想通貨保険市場が急成長の兆しを見せていることは、世界的な保険市場の動きからも見て取れます。

世界一の保険市場と言えば、ロンドンの「ロイズ・オブ・ロンドン(以下、ロイズ)」です。ロイズでは、世界中の保険引受業者と保険契約仲介業者が所属していますが、既にロイズに属する複数の業者が、仮想通貨関連企業に保険商品の提供を始めています。

仮想通貨関連の保険を取り扱うのがスタートアップだけであれば、市場の成長にそれなりの時間を要するものですが、ロイズでも既に仮想通貨保険サービスが提供されていることを考えると、Joshua Motta氏が急成長を予想することも頷けます。

仮想通貨保険の具体例も一部明らかとなっています。

例えば、世界最大手の仮想通貨取引所であるコインベースは、ホットウォレットにサイバー攻撃を受けて仮想通貨を流出させた場合に、2億5500万ドルまで補償を受けられる保険に加入しているようです。

ネガティブ・ポジティブどちらにも解釈できる

保険市場の動きが仮想通貨市場に与える影響は、ネガティブにも、ポジティブにも解釈できます。

ネガティブな解釈

当初、ブロックチェーン技術は、改ざんなどを防ぐことに優れているとされてきました。

しかし、当初はこのように信じられていたものの、理論的に不正が可能であるとする意見がしばしば見られ、実際にブロックチェーンが不正に書き換えられる事例も起きています。

ブロックチェーンのルールを逆手に取ったサイバー攻撃によって、不正を防ぎきれなかったことは、サイバー攻撃がブロックチェーンのセキュリティを上回っている証拠とも言えます。

そして、セキュリティ面での脆弱性を補うべく、多くの仮想通貨がアップデートを繰り返しています。

これも、仮想通貨業界がサイバー攻撃を防ぎきれない事実を受け入れているからに他なりません。

同様に、仮想通貨のセキュリティに問題があるからこそ、保険市場がここに商機を見出しているのです。

もし、セキュリティにおいて完全無欠であれば、仮想通貨保険の需要はなく、仮想通貨保険市場は成り立たないはずです。

このように、仮想通貨保険市場の急成長は、サイバー攻撃の懸念が払しょくしきれていないことの証左です。

サイバー攻撃の懸念が払しょくされない限り、各国政府や規制当局が仮想通貨と積極的に向き合えないことを考えれば、悪材料とも受け取れる内容です。

ポジティブな解釈

一方、仮想通貨保険市場の拡大は、ポジティブにも解釈できます。

保険業界が仮想通貨保険に商機を見出しているのは、今後も仮想通貨を取り扱う機関や企業が増え、保険サービスを提供する機会があると考えているからです。

つまり、サイバー攻撃への懸念が高まっている中でも、仮想通貨が普及していき、取り入れる企業が増えていくという予想が根拠となって、保険業界が動き始めたのです。

現在、仮想通貨市場の時価総額は30兆円を超えていますが、このうち保険によってカバーされる範囲はごく一部にすぎません。

保険収入を拡大していく余地はまだまだ大きく、保険業界が意欲を燃やす理由となっています。

さらに、仮想通貨市場は、今後大きく伸びていくことが予想されています。

仮想通貨市場の拡大は、仮想通貨保険の拡大余地にもつながるため、保険業界はこの点にも注目していると思われます。

このほか、仮想通貨保険市場の成長は、仮想通貨の価値が認められてきた証拠とも言えます。

そもそも、保険というものは、

 

  • 自動車という資産が、交通事故などによる損害を受けた時の備え→自動車保険
  • 不動産という資産が、火災や地震などによる損害を受けた時の備え→火災保険・地震保険
  • 貨物や船舶という資産が、海上危険による損害を受けたときの備え→海上保険

 

というように、明らかな価値が認められている資産に対し、損害を担保するためのものです。

仮想通貨保険も、仮想通貨に資産としての明らかな価値を認め、損害を担保することが目的です。

このことから、保険業界が仮想通貨業界に参入してきたことから、仮想通貨が資産としての地位を認められたと考えることもできます。

仮想通貨に否定的な人はまだまだ多く、トランプ大統領も「ビットコインはお金ではない。価値の裏付けはなく、信頼していない」と発言しています。

しかし、仮想通貨の価値を認める流れが徐々に高まってきていることは間違いありません。

保険業界の動きからも、この流れは明らかです。

個人レベルでも普及は進む

保険業界、仮想通貨業界といった大きなくくりだけではなく、個人レベルでもこの流れは加速しています。

先日、10BTC以上を保有するビットコインアドレス数が過去最高に達したことが報じられました。

9月1日時点で、10BTC以上を保有するビットコインアドレスは15万7000アドレスに達しています。

もっとも、10BTC以上を保有しているのは、ビットコイン保有者全体のうち上位1%といわれています。

ビットコインSVを率いるクレイグ・ライト氏は、110万BTCを所有しているとされていますが、このことからも多くのビットコインが一部の人に集中している様子がうかがえます。

ビットコインの大量保有者は、秘密鍵の紛失などに備えて、複数のビットコインアドレスに分散して保管するのが普通です。

このため、10BTC以上を保有するアドレスが過去最高に達したとはいえ、これを以て仮想通貨に投資する人が大幅に増えているとは言い切れません。

10BTC以上を保有するアドレス数の増加推移を見ても、アドレス数の増加は2016年頃から鈍くなっており、2017年頃から現在にかけてはほぼ横ばいを続けていました。

最近になって、横ばいから微増に転じた結果、10BTC以上を保有するアドレスが過去最高に達したにすぎません。

とはいえ、10BTC以上を保有するアドレス数が過去最高に達したことは事実です。増加したビットコインアドレスの中には、新たにビットコインに投資した人のビットコインアドレスも多分に含まれているはずです。

少なくとも、アドレス数は横ばいを続けた後に減少することなく、上昇の兆しを見せているのですから、仮想通貨への期待と人気はまだまだ衰えていないと考えるのが自然です。

このような流れも、保険業界が仮想通貨業界に参入する動機になっていることでしょう。

まとめ

金融庁の遠藤長官がフィンサム2019で語ったように、現在、急速に発展するフィンテック技術に対し、国内外の規制が追い付いていません。

ブロックチェーン技術がサイバー攻撃を防ぎきれていない今、ブロックチェーン技術の発展を一層促進していく必要がありますが、それによって規制とのギャップがさらに広がってくれば、新たな懸念が生まれる可能性も否定できません。

保険市場で仮想通貨保険が成長の兆しを見せていることは、このような複雑な事情が絡み合っていることでしょう。

保険業界の動向は、ポジティブにもネガティブにも捉えられる動きです。

サイバー攻撃や仮想通貨保険に関するニュースも、今後はそれなりに判断材料になってくると考えられます。

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