ビットコインを考えるにあたり、「ビットコインは金に似ている」と言われることがあります。
当サイトでも、そのような表現を用いたことがありますが、仮想通貨やビットコインに対してあまりイメージができていない段階では、ビットコインと金の類似性を取り上げて説明するのがわかりやすいからです。
しかし、ビットコインをそれなりに理解した人は、金とビットコインの相違点も知っておく必要があると思います。
深く見ていくと、やはり金とビットコインには様々な点に違いがあるからです。
本稿では、ビットコインと金の相違点を中心に、その周辺の事柄についても解説していきたいと思います。
ビットコインと金の関係
ビットコイン投資は、金投資に似ているとも言われています。
これは、金の埋蔵量には上限があるのと同じく、ビットコインの発行枚数に上限があること、需要が高まるほど価値が上がっていくこと、安全資産としての側面を持っていることなどが挙げられます。
ビットコイン価格は、2017年3月に金価格を上まわり、1BTC価格が1オンス価格を超えました。
その後、金の価格にはあまり変化がないのに対し、ビットコイン価格は伸び続けています。
多くの場合、ビットコインと金は似ているものだと言われることが多いのですが、この両者には違いもあります。
では、ビットコインと金の類似点、相違点は何なのか、具体的にみていきましょう。
ビットコインと金の類似点・相違点
発行枚数の上限と新規発行
ビットコインの発行枚数は、2100万枚を上限としており、マイニングによって一定のペースで新規発行が行われています。
地上に存在する金の埋蔵量にも限りはあります。
有史以来、人類が採掘してきた金の総量は17万1300トンであり、比重などから計算すると、長さ50m×幅25m×深さ2mのオリンピックプールに約3.5杯分の量です。
世界中の金をかき集めると、これだけの量になるということです。
そして、マイニングによって刻々とビットコインが増えているのと同じく、金も鉱山から採掘されています。
ビットコインが10分毎に新規発行されるのに対し、金の採掘量はその年によって異なります。
既に採掘されている地上在庫が市場に出回ったり、新規に採掘されたりした結果、年間平均で4500トン程度が新規に出回っています。
このように、上限があって無限に流通するものではないこと、その上限に向かって新規に発行・採掘されていることなどが類似点です。
一方、ビットコインは新規での発行ペースが一定です。
上限に近づくにつれて新規発行量が半減することはありますが、それでも、ある日はx枚の新規発行、ある日はy枚の新規発行、またある日はz枚の新規発行というようにバラバラにはなりません。
これに対し、金の新規採掘量は日によって変化します。
全世界の埋蔵量の8割を占める南アフリカの鉱山でストライキなどが起これば、新規採掘量が大きく減少することもあるでしょう。
このように、新規発行・算出ペースが一定しているかどうか、ということに違いがあります。
ビットコイン固有の問題点とは?
ただし、ビットコインには、明らかに金にはない問題点が存在します。
それは、分裂問題です。
ビットコインとビットコイン・キャッシュの分裂だけではなく、過去にもイーサリアムとイーサリアム・クラシックの分裂問題がありました。
ブロックチェーンは枝分かれしないことが前提であり、ハードウォークは本来禁じ手なのですが、実際に行なわれることがあり、信用を損なったり、市場を混乱させたりすることがあります。
しかもそれは、管理する集団の方針の相違からの分裂です。
これは、仮想通貨であるビットコイン独特の問題点で、金ならばありえないことです。
金は金であって、いくら金を管理する集団の方針が異なるからと言って、金が分裂して二種類の金属に分かれたりすることはありません。
また、ビットコインとビットコイン・キャッシュが分裂した時、それ以前にビットコインを保有していたユーザーには、それと同量のビットコイン・キャッシュが与えられました。
つまり、1BTC持っていた人は、1BCHもらえたということです。
このことを金に例えるならば、何らかの問題から金が2種類の金属に分けられることとなり、それ以前に金を持っていた人に対して、新たにわかれた同量の金が与えられるという、なんとも不可解なことになってしまいます。
このことからわかる通り、物理的に存在する金と、物理的には存在しないビットコインでは、明らかな違いがあります。
物理的に存在している金は、誰が見ても金です。
しかし、デジタルなビットコインでは方針や意見の相違により、今後またブロックチェーンが分裂していくという可能性も否定はできません。
これは金とビットコインの大きな相違点であり、このことから、安定性や信頼性という面においては、まだまだ金の方が圧倒的に高いといってよい状況でしょう。
用途の違いに大きな差
ビットコインと金の関係において、全く違う点、それは用途です。
もちろん、資産として保有するという意味では、どちらも共通しているわけですが、それ以外にもビットコインならば通貨としての活用、金ならばジュエリーや金属としての活用があります。
金はビットコインのように、買い物に使うことはできません。
ビットコインは金のように、ジュエリーや金属として使うことはできません。
これは、両者の大きな違いと言っていいでしょう。
金にはジュエリーとしての側面がありますから、加工品の材料に使われることがあります。
金の需要の半分近くが、加工品としての需要であり、投資用の需要は全体の3割程度に過ぎません。
2011年のデータでいえば、4486トンの需要がありましたが、そのうちの1973トンの需要が加工用でした。
ちなみに、ここでいう加工とは、宝飾品への加工であり、例えば金の指輪やネックレス、金無垢の腕時計などのことです。
このほか、金は金属の一種ですから、宝飾品以外の実用的な産業に活用されることがあります。
金は化学的に非常に安定しており、錆びることがない金属です。
ツタンカーメンのマスクが輝いているのも、金でできているからです。
この他、金は柔らかくて伸びやすく、加工が容易です。
これらの特徴から、金は金線や金メッキ溶液に使われます。
金線は、金が細く伸びる性質と安定性、電気抵抗の小ささを活かした製品であり、コンピューターや携帯電話の電子部品にも使われています。
金メッキ溶液は皆さんもご存知のとおり、色々なことに活用されています。
しかし、工業への活用は全体の2割程度です。
このことから、金は宝飾品や投資用の地金といった、生活上必ずしも必要ではないものに使われることが圧倒的に多いといえます。
日常生活で通貨として使えるビットコインに比べると、かなり異なる点です。
安全資産としては金の方が優れている
以上のことから、ビットコインと金には多くの違いがあることが分かったと思います。
ビットコインと金が似ているという意見が多いのですが、それはあくまでも、
- 総量に上限があること
- 需要によって価格が決まること
だけです。
実際には、総量の決まり方や安定性は大きく異なりますし、需要の内訳に至ってはかなり異なります。
したがって、どちらも安全資産としての側面はありますが、その安全性は何を以て担保されているのかを知る必要があります。
ビットコインの安全性は、特定の機関を中心として運営されていないこと、発行上限や発行ペースを変えられないこと、ビットコインが実際に価値を持っていることによって担保されています。
しかしながら、中心となる機関が無いからこそ、運営する集団内の分裂によって通貨そのものが分裂してしまうなどの不安定性を内包しています。
また、ビットコインよりも優れた後発の仮想通貨がビットコイン以上の支持を受けた場合には、ビットコインの価値はなくなり、安全資産としての価値も無くなる可能性があります。
金の安全性は、埋蔵量と流通量に上限があること、工業品や宝飾品としての需要が確実にあること、普遍的な価値があることによって担保されています。
新しい鉱脈が見つかることもあるかもしれませんが、地上に存在する総量が大幅に増えるわけではなく、安定しています。
また、工業品として活用されており、現段階では金の代替となる金属はありません。
宝飾品としての活用も同様で、有史以来、人々は金の価値・魅力に魅せられ続けてきたのですから、金の価値がなくなってしまうことはあり得ません。
したがって、ビットコインと金では、類似点はあるものの、安全性や安定性、信頼性においては、金の方がはるかに優れています。
これは仕方のないことで、金は人類と何千年も付き合ってきたのに対し、ビットコインはまだわずか10年弱の付き合いでしかないのですから、信頼が劣って当たり前なのです。
ビットコインを安全資産として勧める論調もありますが、本当に資産を守るために投資をするならば、ビットコインよりも金に投資したほうが、はるかに良いでしょう。
ビットコインへの投資は、やはり価値の上昇に重きを置くべきです。
安全資産として、資産を守るために買うのではなく、値上がりによって利益を得たり、ビットコインを貸し出して利益を得たり、そうして得た利益分のビットコインで買い物をしたりするために使うべきものなのです。
純金ビットコインは記念品であって投資対象ではない
最近、純金ビットコインというものが登場しました。
ビットコインのデザインを用いた記念金貨です。
金と似た性質を持っているビットコインをデザインとし、それをビットコイン決済でも購入できるということが売りになっているようですが、資産の防衛や積極的な投資を考えている人にとって、これを買うのはどうなのでしょうか。
そもそも、この純金ビットコインは、サカモト彫刻が6月から販売を開始したものです。
純度99.99%であり、他の純金コインと変わらない純度を持っています。
しかし、重量が23gに対して、価格が17万8000円というのが問題です。
このコインの購入を金投資として見た場合、1gあたりの価格は約7700円となり、2017年9月1日現在で約5000円ですから、かなり割高となります。
他の地金型金貨ならば、1オンス(約28.3g)で約17万円程度です。
つまり、1gあたり約6000円となっています。
なぜ、金貨にすると割高になるのかと言えば、彫刻を入れてコインに仕立てるのに手間がかかるからです。
したがって、金の現物を安全資産として効率よく購入するならば、ゴールドバーを買うのが最も良い方法です。
しかし、ゴールドバーの購入のためには、400~500万円というまとまったお金が必要となるため、多少割高になるものの、数万円から十数万円で購入できるコインにも需要があるというわけです。
子供の誕生日に1枚ずつ購入する人もいます。
それにしても、純金ビットコインは他の地金型金貨と比較してかなり割高になるため、投資として購入するのは避けた方が良いと思われます。
もちろん、記念品として買うならば良いでしょうし、記念品だからこそ、数十年をかけて価値が上昇していくのを見込んで買うこともできるでしょう。
しかし、昭和60年に発行された、昭和天皇在位60年記念金貨などは、20年経った現在、ネットオークションで10万円を少し超えるくらいの価格でしか取引されていませんし、記念金貨は値上がりするまでにはかなりの時間を要します。
仮に、17万8000円で購入した純金ビットコインが、20年後に20万円になっていたとすれば、利回りは年利で0.6%程度となり、債券にでも投資していた方がずっとマシということになります。
したがって、純金ビットコインを購入する人は、単なるコレクションとして考えておいた方がよく、投資としては成り立ちにくいと考えてください。
さらに、サカモト彫刻では、この純金ビットコインの代金をビットコインで支払えるようにすることで話題になりましたが、これは単なる話題以外の何物でもありません。
上記の通り、純金ビットコインは単なる記念品、コレクションとしての要素がほとんどであり、それを現金で購入するか、ビットコインで購入するかということにあまり意味はありません。
ビットコインと金は類似性があり、その金で作られた純金ビットコインをビットコインで購入できるというだけのことで、それが資産の保全や投資効率の向上に有益というわけではありません。
むしろ、資産の保全を考えるならば、金貨を買うにしても地金型金貨を買った方が効率的ですし、投資効率だけを考えるならばビットコインのままで運用したほうがはるかに良い結果が得られることでしょう。
まとめ
本稿で述べてきた通り、ビットコインと金には類似性があるものの、それ以上の相違性があります。
したがって、金投資=ビットコイン投資と考えるのは大きな間違いで、金投資≒ビットコイン投資という考え方も危ういといえます。
また、仮想通貨元年である2017年、ビットコインに関連付けるだけでそれなりに話題にもなりますから、純金ビットコインのようなものも出てきました。
これに類似するものが、今後も出てくると思います。
それらは、あくまでも記念品的な位置づけとして見るべきであり、投資対象と混同しないように注意してください。