先日、「ビットコインETF」の申請が却下されたことで、ビットコイン価格が大きく下落しました。
この「ビットコインETF」という言葉を耳にすることが増えていますが、ビットコインETFとはどのようなものであり、市場へどのような影響を与えるのでしょうか。
本稿では、ビットコインETFに関する最近の動向を踏まえ、その概要や市場への影響などを解説していきます。
ウィンクルボス兄弟のETF申請は却下される
7月27日、SEC(米国証券取引委員会)の公式意見書が発表され、ウィンクルボス兄弟の申請していたビットコインETFは却下に至りました。
ウィンクルボス兄弟のETF申請が却下されるのは、今回で2度目になります。
この影響を受け、ビットコイン価格は一時的に300ドル近い下落を見せました。
現在は再び価格を回復させていますが、ビットコインETFへの市場の関心度の高さが、良く表れたと言えます。
ビットコインETF上場申請に伴うウィンクルボス兄弟の主張では、仮想通貨市場は価格操作に耐えられる環境となっているとしていました。
しかし、SECの公式意見書によれば、ウィンクルボス兄弟の主張は受け入れがたいものであり、ビットコイン価格は操作可能であり、実際にこれまでも操作されてきたとしています。
また、これまでに発生した取引所へのハッキングなども踏まえ、ビットコイン市場は安定性・安全性を欠いたものであり、これらへの対策にも問題があるとしています。
このほか、仮想通貨の流動性が低いという事実、さらに流動性が低いにもかかわらず、その大部分がまともに規制されていない取引所で取引されていることなども問題視しているようです。
今回、ウィンクルボス兄弟がビットコインETFの上場先に選んだのはBats BZXという取引所なのですが、SECはこの取引所に対し、詐欺や価格操作などを防ぐためにSECの求める水準に達していないと評価しています。
これも、ETFの申請が却下された理由となっています。
なお、この公式意見書では、仮想通貨やブロックチェーンといった新興技術に価値があることを認めており、技術としての有用性は度外視してETFを却下したとしています。
今回の却下で市場は悲観的な反応を見せましたが、すでに申請中のビットコインETFは他にもあり、中でもCBOE(シカゴ・オプション取引所)の申請するビットコインETFに注目が集まっています。
CBOEの申請するETFがどのような結論に至るかによって、ビットコイン価格に大きな影響がもたらされる可能性が高いため、今後も注視が必要です。
ビットコインETFとは?
上記の通り、ビットコインETFに投資家の注目が集まっているわけですが、どうしてこのように注目が集まるのでしょうか。
その大きな理由として、ETFというものの性質が挙げられます。
ETFとは上場投資信託のことであり、特定の指数と連動するように設計されている投資信託の側面を持ち、さらに取引所に上場されることで株のように取引することもできます。
通常のETFは、日経平均株価やS&Pといった指数に連動することを目指します。
例えば、日経平均株価への連動を目指すETFならば、日経平均株価構成銘柄に均一に投資することよって、日経平均株価に連動するように設計されます。
このため、株と同じように取引できるものの、特定の銘柄に投資するというよりも、市場全体に投資する意味合いが強くなります。
ビットコインETFは、ビットコインを投資対象に含む投資信託となっています。
実際に上場されるまでは、構成銘柄がどのように設計されるのか不明ですが、仮想通貨ではビットコインだけが投資対象となり、アルトコインは投資対象には含みません。
ビットコインETFの影響力
もし、ビットコインETFが上場されれば、取引所で株を購入するのと同じような感覚で、ビットコインにも投資が可能となります。
個人投資家にとっても投資しやすくなりますが、それ以上に機関投資家の参入が容易となります。
現在の仮想通貨市場は、機関投資家の資金が流入しにくい環境にあります。
その大きな理由の一つは、仮想通貨市場への規制や法的整備が未熟であることです。
G20の結論も延期が続いている通り、仮想通貨への国際的な規制はまだまだ整備がなされていません。
それだけではなく、ビットコインの資産としての位置づけは曖昧であり、価値も定まっていません。
このような理由から、今後の規制やその他の事象によって、ビットコイン価格は大きく変動する可能性が十分にあります。
つまり、リスクが高い状態にあるため、機関投資家が投資に踏み切れないのです。
もし、ビットコインETFが承認されることになれば、ビットコインETFは証券として売買されることになり、指数に連動する低リスクな金融商品となります。
また、SECが承認するということは、SECがビットコインの透明性や信頼性を認めたことにもなりますから、その意味でも機関投資家は投資しやすくなります。
2018年初頭の仮想通貨価格の高騰は、個人投資家が牽引して起こったものです。
個人の資金が流入しただけであのように暴騰したのですから、それよりずっと大きい資金力を誇る機関投資家の資金が流入すれば、再び暴騰が起こる可能性が高いと考えられます。
個人投資家への影響も大きい
もちろん、ビットコインETFの上場は、個人にもポジティブな影響を与えます。
主に、以下のような影響が考えられます。
管理リスクの低減
ビットコインETFにより、価格変動リスクを抑えられることは、個人でも機関でも変わりません。
それと同時に、個人にとっては、管理リスクの低減につながるということも、大きなメリットになると言えます。
現在、ビットコインやアルトコインに投資するにあたっては、管理のためには秘密鍵を厳重に保管し、ウォレットのハッキングリスクに備え、さらにセキュリティの高い取引所を利用するなどの必要があります。
これにより、仮想通貨への投資は、仮想通貨の管理と切っても切れない関係にあり、仮想通貨が失われる様々なリスクを伴っています。
しかし、ビットコインETFが上場されれば、信用力の高い取引所を通してビットコインを取引することができます。
証券会社で株式を取引した時、その株式がパスワード紛失によって取引できなくなったり、ハッキングによって失われたり、取引所の不正やセキュリティトラブルで失われたりすることはありません。
これと同じように、ビットコインETFに投資することによって、管理リスクを軽減することができるのです。
税金が安くなる
このほか、税金が安くなる可能性があることも、見逃せないメリットでしょう。
ビットコインETFは上場投資信託であるため、証券として定義づけられた場合、それに投資することによって得られた利益に対する課税率は、20%に設定される可能性が高いです。
ビットコインに直接投資した場合、日本の現在の税制では、雑所得に分類されて最大約55%の税金が課せられます。
投資効率を考えるうえで、税金への対策は欠かせないものです。
したがって、ビットコインETFが上場された際には、税金対策の観点からもビットコインETFが好感をもって迎えられると考えられます。
以上のように、ビットコインETFは個人へのプラスの影響も大きいと考えられています。
実際に、SECのウェブサイトにおけるアンケートでも、個人の97%がビットコインETFに賛成しています。
このことからも、ビットコインETFは個人へのメリットが大きく、機関はもちろんのこと個人からの資金流入が期待できます。
ビットコインETFは長い目で見るべき
上記のように、ビットコインETFは機関投資家と個人投資家の双方にメリットをもたらすことが期待されています。
しかし、ビットコインETFの承認は困難であるとする声も見られます。
現在、SECが承認しているETFは、全て規制が整備された資産を取り扱っているETFに限られており、規制が整備されていないビットコインを取り扱うビットコインETFは承認されない可能性が高いとする声もあるのです。
確かに、今回のSECの見解では、国際的な規制が未発達であることを大きな理由として、ビットコインETFを却下しています。
このことから、少なくともG20で国際規制案がまとまるまでは、ビットコインETFが承認される可能性は低いと考えられます。
また、これまでのG20の動きを見ると、仮想通貨規制に関する議論は遅々として進まないという印象があります。
G20で話がまとまるまではビットコインETFが承認されないとすれば、ビットコインETFの上場はまだ先のことになるのかもしれません。
SECは、CBOEの申請に対して、早くて8月上旬に回答するとしています。
しかし、ビットコインという新しい金融商品に対して、SECが安易な結論を下せるはずもありませんから、SECがかなり慎重な判断をする可能性も高く、ビットコインETFの上場は長い目で見る必要がありそうです。
まとめ
2018年を通して、ビットコイン価格はパッとしない状況が続いています。
ビットコイン投資による大きな利益を目指している人にとっては面白くない状況ですが、ビットコインETFの上場は、この状況を打破する可能性を秘めています。
このことから、今後の成り行きに大きな注目が集まっています。
しかし、SECの細心の見解から考えると、ビットコインETFの承認にはまだ時間がかかると考えられるため、長期的な視点で見ていくのが良いでしょう。