6月28日から29日にかけ、大阪でG20が開催されました。
また、時を同じくしてV20も開催されています。
今回、G20では主にリブラについて、V20では主にFATFのガイドラインについて議論されていますが、特に注目すべき内容はなく、仮想通貨市場への影響もほとんど見られません。
本稿では、G20とV20の概要について解説していきます。
G20大阪サミットの内容は?
6月28日から29日にかけて、大阪でG20が開催されました。
仮想通貨が金融に与える影響が高まってから、G20では仮想通貨への世界基準の規制についても議論されてきました。
しかし、特にこれといった内容のある議論ではなく、マネーロンダリングやテロ資金などへの不正利用を防ぐために、世界基準で規制していきましょう、といった方針が確認されるだけでした。
G20の動きによっては、仮想通貨市場に大きな影響を与える可能性があるため、市場からの注目度は高いです。
しかし、既に分かり切っていることを各国が確認し合うだけで、ほとんど進展がない状況が続いていました。
ただし、今回のG20はこれまでと異なり、フェイスブック社が開発を進める「リブラ」について議論が行われています。
フェイスブック社は、リブラのローンチを2020年としており、金融への影響も大きいことから、G20 としては仮想通貨全体に対する規制よりも、リブラへの規制を優先的に進めていく雰囲気になっているようです。
もっとも、今回も仮想通貨への全般的な規制について、具体的な議論はなされていません。
リブラへの規制も、強い懸念を表明しているものの、懸念への具体的な対応は打ち出されていません。
しかし、リブラのローンチまで、あまり時間的な猶予はないため、今後リブラへの規制が急速に進められていく可能性があります。
これが、仮想通貨全体への規制の基礎固めになるとも考えられるため、リブラへの対応には注意しておく必要があるでしょう。
V20も同時開催
今回のG20では、仮想通貨全体への規制からリブラへの規制へシフトした感じがありますが、市場に大きな影響を与えるような議論にはなりませんでした。
一方、G20に合わせて大阪で開催されたV20はどうだったのでしょうか。
V20とは、仮想通貨業界を牽引する、世界の仮想通貨業界関係者、FATF事務局、政府関係者などが集まり、議論・情報の共有などを目的とするものです。
今回のV20には、日本の自主規制団体であるJBA(日本ブロックチェーン協会)も参加しています。
V20で議論される内容は、主にG20が今後世界基準での仮想通貨規制に取り組んでいくにあたり、規制が仮想通貨業界の発展の妨げにならないよう、どのように向き合っていくかについてです。
特に、今回のV20では、FATF(金融活動作業部会。マネーロンダリング対策のための国際基準を策定する組織)が6月22日に発表したガイドラインが議論の対象となっています。
FATFは政府間機関であり、金融ネットワークに強い影響力を持っています。
FATFのガイドラインは、G20が仮想通貨の規制を考えていく上でもひとつの指針となるため、V20 としてもFATFのガイドラインについてしっかり議論し、業界の発展につなげていく必要があるのです。
FATFのガイドラインとV20
FATFのガイドラインは、主にマネーロンダリングとテロ資金調達を防止するために作られており、仮想通貨の普及のためには欠かせないものです。
しかし、FATFのガイドラインの中には、仮想通貨の普及の妨げになりかねない内容も含まれています。
例えば、FATFのガイドラインでは、仮想通貨を送金する際には受取人の情報を提供すべきとしています。
これは、銀行における電信送金では義務付けられていることですが、仮想通貨取引にも適用されてしまうと、仮想通貨のメリットを損なうことになります。
なぜならば、仮想通貨取引はアドレスさえあれば可能であり、それがブロックチェーン技術の優れた点でもあるからです。
また、仮想通貨交換業者にとって、提供する受取人の情報が正確であるかどうかを確認することが困難な場合も多く、コスト負担の増大を招きます。
このコストは利用者の負担にもつながり、低コストで送金できるというメリットも損なわれます。
コスト負担を嫌う利用者だけではなく、仮想通貨の受取人の情報把握が困難な場合に送金できないとなれば、規制の対象外であるウォレット同士で仮想通貨をやり取りする人が増え、仮想通貨の流れを把握することが一層困難となり、マネーロンダリングやテロ資金調達の問題が却って大きくなる可能性もあります。
このように、FATFの規制によって受取人の正確な情報の提供が義務付けられても、仮想通貨の発展の妨げとなり、犯罪防止にも逆効果なのではないかという懸念の声が上っています。
ガイドラインは仮のもの
Ⅴ20では、仮想通貨業界から懸念の声が上っている、ガイドラインの条項についてFATF自ら解説しています。
Ⅴ20で登壇したFATF書記官は、22日に発表したガイドラインは仮のものであり、より適切な規制を模索中であるとしています。
FATFは、中央集権的な仮想通貨取引所だけではなく、分散型取引所やP2P取引所も含めた規制が必要と話していますが、これは一朝一夕に片付く問題ではありません。
特に、「P2P取引が増加し、把握が一層困難になるのではないか」という質問に対して、技術的に多くの課題があることを認めています。
この課題に取り組むにあたり、様々な専門知識が必要となります。
FATFでは、資金洗浄やテロ資金対策に関する技術、ここでは仮想通貨やブロックチェーン技術について、専門機関にリサーチを依頼して専門の知識・情報を収集し、G20に報告しています。
FATFは、2018年のG20終了後、規制の整備を促進するためにリサーチを始めたと話しています。
アルゼンチンでG20が開催されたのは2018年12月ですから、FATFが専門知識・情報を収集し、規制を模索してからまだ半年しか経っていません。
規制を作り上げていくには、まだ時間がかかると見てよいでしょう。
なお、FATFの規制は仮想通貨業界にデメリットをもたらすことが目的ではなく、規制によって仮想通貨市場がよりオープンになるものだと強調しています。
現時点でのガイドラインには懸念の声もありますが、FATF自らの説明によって、
- ごく短期間でガイドラインを作成していることから、あくまでも仮のものであり、模索中であること
- 仮想通貨業界にマイナスにならない規制を模索していること
などがわかり、とりあえずは安心といったところです。
JBA・加納会長のスピーチ
また、Ⅴ20に参加したJBAからは、会長である加納裕三氏がスピーチをしています。
加納氏は、日本国内で仮想通貨の関心が高まっていることを、
- ビックカメラなどの大企業がBTC決済を導入していること
- 仮想通貨関連書籍が100冊を超えていること
などの例を挙げながら話し、また国内の規制への取り組みについては、
- JBA(日本ブロックチェーン協会)、JVCEA(日本仮想通貨交換業協会)、JCBA(日本仮想通貨事業者協会)などの組織が業界の整備に取り組んでいること
- 金融庁が改正資金決済法に仮想通貨を取り組んだこと
などについて話しています。
日本は改正資金決済法の可決をはじめ、世界的にも規制が進んでいる国です。
もちろん、コインチェック事件のような未曽有のハッキング被害もあったものの、それを通じて業界が成長しつつあります。
一方で、規制の整備が遅れている国、不明確性が強くなりつつある国なども多く、各国での規制に格差が出てきています。
この格差が大きくなるにつれて、規制が遅れている国を利用した規制逃れの問題が大きくなるでしょう。
加納氏は、このような問題に対処するためにも、世界基準での規制が必要だと訴えかけました。
まとめ
今回のG20・V20では、どちらも大きな話題になる動きは見られませんでした。
世界基準での規制は、FATFの取り組みを見ても、G20 の内容を見ても、まだまだ模索中といった印象があります。
仮想通貨市場への影響は可もなく不可もなく、今後も世界基準での規制という大きな単位での動きではなく、米SECの動きや日本の金融庁の動き、あるいはそれぞれの仮想通貨の動きなど、小さな単位での動きに注目していくことになりそうです。