先日18日、フェイスブックが手掛ける仮想通貨プロジェクト「リブラ」のホワイトペーパーが公開され、話題を集めています。
リブラが注目されることで気になるのが、他の仮想通貨への影響です。
このような巨大な影響力を持つリブラと競合することになれば、駆逐され、価格が低迷してしまう可能性もあるかもしれません。
実際のところ、リブラの影響はどうなのでしょうか。
本稿で、専門家の意見をまとめていきます。
リブラの影響は?
仮想通貨リブラを手掛けるのは、世界最大級のIT企業であるフェイスブックです。
フェイスブックは全世界に27億人ものユーザーを抱えており、この顧客基盤をもとに展開していくことで、リブラが素早く浸透していく可能性があります。
これにより、従来の仮想通貨のシェアが奪われるのではないかと懸念を抱く投資家もいますが、実際にはどうなのでしょうか。
仮想通貨の中でも最も高いシェアを誇るビットコインとの違い、またビットコインへの影響についての識者の意見を見てみると、リブラと他の仮想通貨の関係が分かります。
ビットコインとリブラの違い
ビットコインとリブラには、以下のような違いがあります。
ボラティリティの違い
リブラは、安定性の高い複数の法定通貨や債券を裏付け資産としているため、ビットコインに比べて価格の安定性に優れています。
価格が乱高下することは、ビットコインの普及を妨げる大きな原因にもなっています。
ボラティリティ問題は長引きそう
先日、ロシアのサイバーセキュリティ会社であるKasperskyの調査が公開されていますが、その中でもボラティリティの問題が浮き彫りになっています。
この調査は、2018年11月頃に行われたものです。
世界22か国で行われた調査の結果、
- 全世界の19%の人が仮想通貨を購入した経験がある
- 購入した経験がある人のうち、仮想通貨について十分に理解したと答えた人は10%にとどまる
ということが分かりました。
これは、ほとんどの人が、よくわからないまま仮想通貨を購入しているということです。
よくわからないものを、利益が得られるという希望的観測によって購入しているのですから、これは投資ではなく投機です。
よくわからないまま仮想通貨を購入した場合、不明確な動機で売買されることが増え、値動きへの反応も必要以上に敏感になってしまいます。
このため、その投資対象の実際の価値とは関係なく価格が上下し、ボラティリティが高くなってしまうのです。
2017年は仮想通貨元年などとも言われていましたが、それから2年がたった今も仮想通貨への理解が浸透していないことを見れば、今後もボラティリティ問題は容易に解消されないでしょう。
リブラが仮想通貨保有のハードルを下げる?
さらに、調査対象者の35%が「仮想通貨は一時的な流行である」と回答したほか、31%が「仮想通貨の価格は不安定である」と回答しています。
購入する人の理解のなさがボラティリティの高さにつながり、それを不安視し、一時的な流行であるとみなす人も多いのですから、この問題の深さが分かります。
しかしまた、仮想通貨を保有したことがないと回答した人のうち、14%が「将来的に仮想通貨を保有したい」と答えています。
ボラティリティの高さを不安視し、しかし仮想通貨を保有したいとも考えている人にとって、ボラティリティが低く安定性の高いリブラが関心の対象になり、仮想通貨を保有するためのハードルを下げる可能性があります。
トランザクション数の違い
また、1秒当たりのトランザクション数を比較してみると、ビットコインは7件程度であるのに対し、リブラは1000件程度とされています。
しかし、これはあまり関係ないでしょう。
トランザクション数だけで比較すれば、XRPは毎秒4000以上とされていますし、リブラの「毎秒1000件」という処理能力が特に優れているわけではありません。
また、技術の進歩に伴って、今後も各仮想通貨のトランザクション能力はどんどん進歩していくはずです。
それぞれの仮想通貨の現在のトランザクション数を比較して、どれが優れているという見方はあまり意味がないでしょう。
したがって、トランザクション数を理由にビットコインよりもリブラが優れており、ビットコインの価値や需要が相対的に下がるとは考えにくいです。
リブラは仮想通貨全体にとってポジティブ
ボラティリティの問題から考えてみると、リブラはビットコインよりも優れており、ビットコインの立場が危うくなるようにも見えます。
また、多くの仮想通貨は価格が安定していないため、ビットコイン以外の仮想通貨も同じです。
しかし、
- リブラは仮想通貨全体にとってむしろ良い影響をもたらす
- リブラとビットコインは競合しない
とする専門家も少なくありません。
仮想通貨全体に良い影響
まず、投資企業BKCMのCEOであるブライアン・ケリー氏は、リブラがビットコインや仮想通貨全体に良い影響をもたらすとしています。
ケリー氏は、リブラを法定通貨のデジタル版と位置付けています。
フェイスブックという、誰もが知っている大企業が先頭に立ち、多くの大企業が賛同してリブラ経済圏に参加し、ボラティリティは低く、セキュリティ的にも優れており、誰もが持っているスマホで手軽に使えるとなれば、これまで仮想通貨を疑問視してきた人でもすんなり受け入れやすくなります。
フェイスブックの構想では、リブラをSNSであるFacebokのプラットフォームに組み込んだり、それに準ずる様々なアプリケーションと連動するとしています。
これによって、リブラを手軽に使える環境となれば、仮想通貨を持つこと、使うことへのハードルが大きく下がるはずです。
これは、法定通貨からデジタル資産に移行する流れをスムーズにするということですから、同じくデジタル資産である他の仮想通貨を取得するハードルも下がることにつながります。
仮想通貨業界の整備が進む
リブラを手掛けるフェイスブックは巨大企業であり、リブラ・アソシエーションに参加する企業もそうそうたるメンバーです。
影響力は非常に大きく、これまでデジタル資産との関与に消極的だった金融機関や送金業者、政府なども無関心ではいられなくなります。
これによって、カストディやウォレットなど、デジタル資産関連のインフラ開発が活発化したり、各国の法整備・国際規制などでより具体的な議論がなされるようになったりすれば、仮想通貨業界全体の整備が大きく進むことが期待できます。
ビットコインとリブラが競合しない理由
価格の安定性で劣るビットコインですが、ビットコインにとってもリブラの存在を好ましいと捉える専門家は多いです。
まず、上記のように仮想通貨への抵抗が減ることや、金融機関や政府の取り組みが活発化することにより、ビットコインも良い影響を受けると考えられます。
このほか、ビットコインにもリブラより優れている部分があり、この点からもリブラの普及=ビットコインの淘汰ということにはならないでしょう。
ビットコインの強みについて、専門家の意見には以下のようなものがあります。
価値の保存手段として
まず、ビットコインには発行枚数に上限があるのに対し、リブラには上限がなく、これがビットコインの優位な点となります。
ビットコインの発行枚数は2100万枚に限定されており、また1ブロックを生成するたびに新規に供給される枚数も決まっています。
しかし、リブラのようなステーブルコインには発行上限や発行のペースが決まっておらず、フェイスブックの裁量で変動させることも可能です。
発行枚数に上限があるからこそ、ビットコインは有限のものであり、価値の保存手段として優れています。
しかし、リブラは価値の保存手段として優れているとは言えません。
したがって、富の保存手段として捉えた場合、ビットコインはリブラに比べて強みがあり、リブラが普及してもビットコインの需要はなくならないと考えられます。
中央集権・非中央集権の違い
次に、ビットコインとリブラの大きな違いは、第三者機関に対する信頼の有無が挙げられます。
ビットコインは、国などの特定の機関によって発行・管理されるものではなく、全くの非中央集権的な性質を持っています。
これによって、特定の機関がビットコインに働きかけることで、信頼性が揺らぐ心配がありません。
これに対し、リブラはフェイスブック社によって発行・管理される中央集権的な仮想通貨です。
リブラを使うためには、まずフェイスブック社に法定通貨を預けてリブラを購入する必要があります。
このため、リブラの信頼はフェイスブック社という特定の機関に依存しているということです。
この点においても、ビットコインとリブラには大きな違いがあり、ビットコインとリブラの競合が起こりにくい理由でもあります。
以上のように、リブラの普及は仮想通貨業界の発展につながり、ビットコインにとっても良い影響があるほか、
・リブラは価値の交換(決済)を目的としているのに対し、ビットコインは価値の保存に役立つこと
・リブラはフェイスブックという企業が発行する中央集権的な仮想通貨であるのに対し、ビットコインは非中央集権的な仮想通貨であること
などにより、競合は少ないとする見方が強いようです。
XRPとも競合せず
価値の保存手段としてではなく、価値の交換(送金や決済)の手段として捉えた場合、リブラとXRPは競合するようにも思えます。
リブラはフェイスブック社が発行することと同じく、XRPはリップル社が発行していますから、この点でも類似しています。
しかし、リップル社のCEOであるBrad Garlinghouse氏も、リブラの影響をポジティブに捉えています。
Garlinghouse氏は先日、ブルームバーグTVに出演し、マネーグラムとの戦略的提携について話したほか、リブラについても言及しています。
Garlinghouse氏は、リブラについて、
ブロックチェーンと仮想通貨は、反政府的な思想、金融機関に対する不信感から生まれたものだ。
それが、大手企業から認められつつある。
ブロックチェーンと仮想通貨市場にとって非常にポジティブな動きだ。
と語っています。
ビットコインやXRPとの競合についても楽観視しており、
フェイスブックは、インスタグラムやメッセンジャー、ワッツアップなど、消費者向けの企業である(リブラも、個人消費者がメインユーザーとなるだろう)。
しかし、リップル社は大手金融機関や送金決済企業向けに、インフラ整備を進めている。
個人を対象としておらず、リブラとXRPは異なる通貨だと考えている。
と話しています。
まとめ
フェイスブックのリブラが普及することにより、ビットコインや他の仮想通貨にマイナスの影響を与えるのではないかとする懸念がありますが、今のところ、ネガティブな影響を具体的に述べる専門家は少なく、むしろポジティブに捉えている専門家が多いようです。
しかし、これはあくまでも仮想通貨を肯定する専門家の意見であり、政府や金融機関など、リブラに対して危機感を抱いている方面からは、様々な懸念の声が上がっています。
今後、リブラがどのように開発されていくのか、また懸念の声にどう対処していくかにより、他の仮想通貨との関係性も変わってくるかもしれません。
今後も、リブラの動きには注目していく必要がありそうです。