9月5日から、イーサリアムの大暴落が始まりました。
5日から6日にかけて20%以上の暴落となり、その後やや落ち着きを取り戻したものの、9日5時現在では30%程度まで暴落が進んでいます。
イーサリアムの暴落は、何が原因だったのでしょうか。
本稿では、有力視されている原因を解説し、ICOのはらむ問題についても考えていきます。
イーサリアムが30%の大暴落へ
最も有名なアルトコインのひとつであり、仮想通貨市場ではビットコインに次いで時価総額第2位を誇るイーサリアムが、9月5日から6日にかけて、20%以上の大暴落を記録しました。
チャートを見てみると、5日18時時点では3万1000円台にあったものが、5日20時には2万8000円台、6日3時には2万7000円台、6日10時には2万5000円台と段階的な暴落を見せ、その後しばらく横ばいの動きの後に再び急落となり、9日5時現在では2万2000円台まで下落しています。
数日のうちに、実に30%程度の暴落となりました。
イーサリアムの可能性は非常に高いとされており、将来を嘱望されているアルトコインでした。
2017年は約1000円から約9万円へと伸長し、2018年初めの暴騰時には15万円を超える局面もありました。
今年の初めには、2018年中に時価総額でビットコインを抜くと予想する専門家(Steven Nerayoff氏の談。イーサリアムの共同開発者)もいたほどです。
その期待の大きさから、仮想通貨投資にあたり、イーサリアムに狙いをつけていた仮想通貨投資家も多いと思います。
今回の下落でも、イーサリアムは未だに時価総額第3位のリップルと1兆円ほどの差をつけていることから、時価総額第2位の地位は維持することができそうですが、ビットコインに追いつくのはなかなか難しそうです。
しかし、いつまでも下落を続ける相場はないわけで、底値と読んでの買い注文が殺到すれば、下落は食い止められ、反騰する可能性もあります。
そのような動きがなければ、弱気相場がしばらく支配するかもしれません。
なんにせよ、投資には難しい環境となっています。
投資判断が難しい時は投資すべきではない、休むも相場などと言われるのが投資というものですから、よほどの根拠がないうちは静観するのが無難と思われます。
暴落の背景
さて、短時間の内に多く売られることで暴落が引き起こされ、今回、損失を被った人も少なくないと思います。
では、この暴落はなぜ引き起こされたのでしょうか。
そもそも暴落というものは、何らかのきっかけで大きく売られて価格が下がり、それが損切りのための売りを引き起こして売りに拍車がかかり、狼狽売りを呼んで暴落に至ります。
実際、今回の暴落にあたって、売り注文は1週間前と比較して80%の増加、1ヶ月前との比較では160%も増加していると言います。
9月6日には、1日で1万3500ETHが売られていますが、これまでに1日で売却されるイーサリアムは1000~5000ETHであること、また先月全体で20万ETFが売られたことと比較すれば、その異常さがよく分かるでしょう。
売り注文が殺到して下落が引き起こされており、その増加率も小さくないことから、弱気相場が続くとする見方が強いです。
現段階で、この暴落の原因と目されているのはICO実施企業によるイーサリアムの売りであり、アメリカのメディアBloombergはそのように主張しています。
仮想通貨市場が弱気であることから、ICOで調達した企業が価値の高いうちにイーサリアムを売り抜こうとした結果、大量の売り注文が発生し、暴落につながったとされています。
また、仮想通貨ヘッジファンドのブルームウォーター・キャピタルの代表であるビスワ・ダス氏によると、
ICOによって大量の資金を調達したものの、資金管理やキャッシュマネジメントの経験不足から、早期に大量の売りに動いたのではないか。
との分析がなされています。
具体的には、ICOを行ったプロジェクトのうち、9月6日に以下のような売り注文が発生しています。
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- PolicyPal Network・・・6400ETHの売り
- Electrify Asia・・・2000ETHの売り
- 0x・・・1500ETHの売り
- Proppy・・・1490ETHの売り
この他にも、数百単位での売りがいくつも出ています。
もっとも、ICOプロジェクトに関するイーサリアムの売却は、先月からしばしばみられていたものです。
先月8月14日以降、1日当たり1~2万ETHの売却が連日のようにみられていました。
最近はやや落ち着いていましたが、9月4日にはDigix社が7万ETHを売却することが決定したと報じられ、取引所Geminiに5万4000ETHが移されています。
このイーサリアムは、すでに法定通貨に置き換えられています。
しかし、OTCマーケットでの取引(不特定多数を相手に取引を行うのではなく、特定の売り手と買い手が相対で取引するもの)で売買することや、時間をかけて分割で売却していくことが発表されており、市場の影響はそれほど懸念されていませんでした。
一方、今回の複数のプロジェクトによる売却はそうではありません。
過去1週間におけるイーサリアムの送金は、Digix社による7万ETHを除外しても5万ETHに上るとみられており、そのうち70%は売却されたとの見方が有力です。
このように見ると、最近はイーサリアムの売り圧力が強い状況が続いてきた状況の中で、9月5日にビットコインが急落を始めたことに連動して、短時間の内にイーサリアムの売り注文が再燃し、今回の暴落に至ったのでしょう。
9月4日から続くビットコインの暴落では、その原因はクジラ(巨額の資金を動かす機関投資家の俗称)の動きにあるとみられています。
しかし、これは関係が示唆されているという程度のものであり、不明な部分も多いです。
その他の影響
以上のことをまとめると、今回のイーサリアムの暴落は、ICOプロジェクト関連の売り圧力が強い傾向が続いていたこと、ビットコインの暴落によってそれに拍車がかかったことが有力視されています。
しかし、それ以外にも原因だとみられているものがいくつかあるようです。
それは、
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- シェイプシフトの方針転換
- 需要の低迷
- イーサリアムの価値問題
- イーサリアム先物取引
などです。
これらについても簡単に書いておくと、以下の通りです。
シェイプシフトの方針転換
仮想通貨ニュースサイト・コインテレグラフの見方によれば、仮想通貨両替サービスを行うシェイプシフトを取り上げています。
シェイプシフトは、登録不要でアルトコインをビットコインに両替する(その逆も可能)サービスを提供していましたが、5日、登録を義務付ける方針を発表しました。
これにより、匿名性を好むユーザーが売りに奔ったのではないかとする見方です。
需要の低迷
仮想通貨投資顧問を手掛けるD2キャピタルの創設者プリモズ・コーデス氏は、イーサリアムには限界があることや、ICOによって資金調達をしたものの約束が果たされないケースが多いことから、個人投資家がイーサリアムに興味を失いつつあるというレポートを発表しました。
これも、売り圧力の一部になっているとする見方です。
イーサリアムの価値問題
イーサリアムは、場合によっては価値がなくなるとする発言が、ステラの技術顧問であるジェレミー・ルービン氏によってなされました。
イーサリアムのシステムを運用する際、手数料をイーサで支払う必要がなければイーサリアムに価値はなくなるとする意見です。
イーサリアムの創設者であるブテリン氏は、イーサリアムの今後の展開によってその心配はなくなると反論しています。
最近では、仮想通貨の専門家や著名投資家の発言は、市場にそれほど大きな影響を与えなくなってきていますから、この発言による影響は軽微と思われます。
イーサリアム先物取引
米調査会社ファンドストラットの代表で、ビットコイン価格に強気の見解を示し続けているトム・リー氏は、CBOEが準備を進めているイーサリアム先物について、イーサリアムに悪影響をもたらすとの見解を示しました。
イーサリアムの先物取引が開始されると、イーサリアムの空売りがやりやすくなります。
これにより、昨年末にビットコイン先物が開始された直後にビットコインの下落が生じたのと同様に、イーサリアムの下落が起こるのではないかとする見解を示したのです。
これも、来るべき下落に備えての売り抜きを促がし、今回の下落にいくらかの影響を与えた可能性があります。
イーサリアムの今後はどうなる
上記の問題は、ICO実施企業による売り圧力に比べると、それほど大きな原因になっているとは考えにくいです。
これまでにも、仮想通貨関連企業の方針変更や専門家の発言などはいくらでも行われてきましたが、それが大暴落のきっかけとなることはなく、やはり国単位での大きな規制とか、有名な取引所での大規模なハッキング被害とか、大口の投資家や企業による大規模な売り注文が暴落を引き起こしてきました。
今回のイーサリアムの暴落の大きな原因は、ICO実施企業によって一度にたくさん売られたとする見方が有力ですが、その見方で間違いないと思います。
しかし、もしそうならば、これは大きな問題と言えるでしょう。
これまで、イーサリアムはICOに用いられる仮想通貨としても注目を浴びてきました。
ICOに活用されていることが大きな魅力であったのに、そのICOを発端として暴落が引き起こされる可能性が明らかになったのです。
もっとも、これはよく考えてみれば当たり前のことです。
ICOでイーサリアムによって資金調達をした企業は、調達したイーサリアムを持っているだけでは資金繰りに役立ちません。
現代の経済は円やドルなどの法定通貨で回っており、イーサリアムでは役立たないからです。
となると、調達したイーサリアムを法定通貨に換金して当然です。
もし、その換金がまとめて行われ、しかも複数の企業の換金が被ったとすれば、それが大きな売り圧力となり、暴落を引き起こしても何ら不思議ではありません。
むしろ、仮想通貨相場全体が下落傾向にある今、現在価値で多めに換金しようと考えるのが普通であり、売り圧力は大きくなりやすい環境にあります。
ICOが盛り上がれば盛り上がるほど、イーサリアムの活用は広がっていき、その価値は高まる可能性があります。
しかしその一方で、ICOによる調達額が増えれば増えるほど、一度に大量の売りにつながる可能性も高まり、暴落を引き起こしやすいハイリスクな仮想通貨ということにもなりかねません。
ICOの広がりは、価値上昇の期待と、暴落のリスクを同時にはらんでいる、もろ刃の剣だということになるのです。
そうなれば、暴落を引き起こさないうちに売り抜こうとする動きは強まるでしょうから、理論上は価格が乱高下しやすくなります。
以上のように、今回のイーサリアムの大暴落では、ICOによって生じるリスクの部分が明らかになったとも見ることができます。
ただし、今回の暴落は、必ずしもICOを原因とした売り圧力にあると断定されたわけではありません。
したがって、ICOの可能性や危険性、将来性などについて、今回の暴落だけで結論付けてしまうのは早いでしょう。
今後も、イーサリアムの動きに注目していく必要がありそうです。
まとめ
仮想通貨の中でも特に期待が高かったイーサリアムが、30%もの大暴落を見せたことは、市場に大きなショックを与えました。
仮想通貨投資のリスクが大きいことは、去年から頻繁に言われてきたこととはいえ、お祭りのような状況は一服し、また2018年を通じて徐々に市場の整備が進められてきた中で、まだこのような暴落が起こるのかという印象を受けます。
仮想通貨投資を改めて冷静に考える良い機会としたいものです。